江東区生物多様性フェアと印旛沼外来種取材から紐解く生物多様性とバタフライ・エフェクト

社会課題

2026年7月18日、江東区文化センターで開催された「江東区生物多様性フェア2026」を訪れました。高層マンションが立ち並ぶ都市部でありながら、足元の土や植物から地域コミュニティや環境保護の輪を広げる熱い取り組みに触れることができました。

一方で、同じ夏に報じられた「千葉豪雨によるナガエツルノゲイトウの拡散ニュース」に危機感を抱き、実際に佐倉ふるさと広場や大和田機場へと現地観察に向かいました。そこで目にしたのは、わずか一節の草の断片が、豪雨という気候現象と結びついてインフラや農業を脅かすリアルな現場でした。

一見すると無関係に見える「都市の草の根活動」と「水辺の外来種問題」。しかしそこには、**「些細な変化が巡り巡って大きな影響を生み出す」という共通のシステム(バタフライ・エフェクト)**が存在します。

本記事では、江東区の事例と国際機関のデータ、そして印旛沼の現地ルポを通じて、生物多様性のつながりと、私たちが日常の仕事や暮らしで見落としてはならない「兆し」について考えていきます。
サステナブルーの活動はパートナー企業によって支えられています。

この記事を読むことでわかること

  • 都市における生物多様性保全のリアルな現場
    (江東区で活動する5団体の具体的なアプローチと効果)
  • データで理解する生物多様性の本質
    (IPBESやFAO等のデータに基づく「7つの視点」と複雑なネットワーク構造)
  • 気候変動と外来種が引き起こす「負のバタフライ・エフェクト」
    (ナガエツルノゲイトウの生態とインフラ被害の背景、そして身近な違和感や小さな変化を捉える思考)

江東区生物多様性フェア2026:身近な足元から広がる「正の波及」

2026年7月18日、江東区文化センターにて「江東区生物多様性フェア2026」が開催されました。会場には行政、地域NPO、市民ボランティア、大学や企業など多彩な主体が集い、都市部における生物多様性保全の最新の取り組みや研究成果が発表されました。

江東区は江戸時代からの埋め立ての歴史を持ち、現在では区民の約8割以上が集合住宅に暮らす高密度な都市空間です。一見すると自然とは遠い環境に見えますが、会場で紹介された草の根の活動は、足元の小さな土や緑から始まった試みが、地域コミュニティや子どもの育成、都市生態系の回復へと多角的に波及していく「正の連鎖(ポジティブ・スピルオーバー)」の構造を鮮明に示していました。

本章では、フェアで取材した注目の5つの団体・取り組みをピックアップし、それぞれの活動内容と地域社会へ及ぼす好循環について詳しく紐解いていきます。


科学的検証と政策提言で都市自然を支える「生物多様性チーム江東」

「生物多様性チーム江東」は、2010年に名古屋で開催された国連の生物多様性条約締約国会議(COP10)をきっかけに結成された市民主体のネットワーク組織です。同チームは、江東区における「生物多様性地域戦略」の策定に向けて市民案を自ら作成・提案し、行政を動かして区の正式な戦略策定を後押ししてきた歴史を持ちます。

今回の発表で特に注目されたのが、約40年にわたる地道な「下町の植物目録」の整理作業です。1923年(大正12年)の旧南葛飾郡の資料をはじめ、1970年代・1981年の既存植物目録を比較・解読し、最新の分子系統学に基づくAPG分類体系へと変換・一元化を行いました。

さらに、単に過去のデータを整理するにとどまらず、大雨や増水時に河川へ流れ着く漂着物の中から、かつて下町の湿地に生息していた地域固有の野生植物(クサネムなど)の種子を採取・発芽させ、遺伝子レベルで地域ゆかりの系統(地域採集株)を育成・保存する取り組みを続けています。

市民の手による学術的知見の蓄積とデータ共有が、都市緑地の再生や行政の環境政策を支える強固な基盤となっています。


都市のポケットビオトープを守り継ぐ「NPO法人ネイチャーリーダー江東」

1988年、旧海岸線や河川に囲まれた江東区の公園内で、人工的に整備したビオトープが生き物の生息地として機能するかを検証する実験が始まりました。その管理・運営を担う人材育成講座(1997年開設)の修了生によって設立されたのが「NPO法人ネイチャーリーダー江東」です。

現在、同団体は区内3箇所のビオトープ(仙台堀川公園ポケットエコスペースなど)の保全・管理を担っています。都市化や環境分断によって絶滅の危機に瀕している東京湾沿岸の固有種「ウラギク」の自生地保護や種子からの保全・増殖を試みているほか、セイタカアワダチソウなどの外来植物の防除やアメリカザリガニの管理を継続しています。

また、定期的な自然観察会や区民祭りでの生き物展示(カブトムシやザリガニの触れ合い)を通じて、都会で育つ子どもたちに「本物の自然」に触れる機会を提供しています。長年の保全活動の結果、区内のビオトープには東京都のレッドデータブックに掲載される希少種を含む80〜90種もの昆虫類が戻ってきており、手入れを続けることが都市生態系の再生に直結することを示しています。


公園インフラの資源循環と体験価値を創出する「都立木場公園」

1992年に開園した都立木場公園(面積24ヘクタール)は、水と緑に恵まれた江東区の中核的な防災・レクリエーション拠点です。開園5周年を契機に開設された「こどもの庭」では、一般的な公園では制限されがちな泥遊びや花摘み、昆虫観察ができるエリアを用意し、年間1,200名以上の利用者に自然体験の場を提供しています。

同公園の取り組みで特筆すべきは、園内で発生する剪定枝や落葉を処分・廃棄せず、園内で循環させる「バイオネスト」や「そだ柵」の導入です。集めた落葉や枝を積むことで、ダンゴムシやミミズなどの土壌生物が住み着き、それを餌とする鳥類や小動物が集まるミクロな生態系(マイクロハビタット)が形成されます。さらに、これが堆肥化して土に還るプロセスを、子どもたちが落葉集めイベントなどを通じて体感できる仕組みに昇華させています。

また、地域の多様な主体が参加する「エリアマネージメント協議会」を通じて企業や近隣施設と連携し、公園という公共空間を媒介にして地域の緑化意識を高めるハブとしての役割を果たしています。


子どもの主体性と生きる力を泥遊びから育む「プレーパーク江東」

「プレーパーク江東」は、区内で展開されている木場・猿江・豊洲などの「冒険遊び場(プレーパーク)」の活動を横断的に支援・連携するために設立された組織です。

プレーパークの理念は、1940年代のデンマークやイギリスで発祥した「自分の責任で自由にあそぶ」という精神に基づいています。ここでいう「自分の責任」とは自己責任の押し付けではなく、子どもが「やってみたい」という内発的な衝動に従い、自ら挑戦し、試行錯誤や失敗を経験するプロセスを尊重することを意味します。

大人は、命に関わる目に見えない危険(ハザード)は事前にそっと取り除きますが、子どもが自分で判断できる危険(リスク)はあえて残し、手出しをせずに見守ります。禁止事項の多い現代の都市公園において、水や泥にまみれ、木登りや工作に没頭できるプレーパークの場は、子どもの自己判断力や創造性を育むだけでなく、異年齢の交流や親同士の見守りネットワークを形成する大切な拠点となっています。


集合住宅街に「土」と「人のつながり」を取り戻す「みどりネットKOTO」

「みどりネットKOTO」は、江東区内の公園や公共施設を活用したコミュニティガーデンの開設・支援を行うNPOです。区と連携し、2030年までに100箇所のコミュニティガーデン開設を目指して活動しており、現在91箇所までその輪が広がっています。

江東区のように高層マンションなどの集合住宅が立ち並ぶ地域では、住民が日常的に土や自然と触れ合う機会が限られています。コミュニティガーデンは、花や野菜の栽培を通じて「土に触れる場」を提供するだけでなく、以下のような多角的な波及効果を生み出しています。

  • 生態系への貢献:多様な花や植物が植えられることで、ミツバチやチョウなどのポリネーター(花粉媒介者)が飛来し、都市における貴重なエコロジカル・ネットワークの点(中継地)として機能します。
  • 社会・コミュニティへの貢献:作業を通じた住民同士の挨拶や交流が生まれ、ガーデニングが適度な運動となって高齢者の健康維持や孤独死防止(ゆるやかな見守り)につながっています。

単なる景観の緑化にとどまらず、ガーデンを巡るスタンプラリー(ウォークラリー)や地区別の交流会を開催することで、人と人、人と自然が出会う街づくりの基盤を形成しています。


小さな「正の芽」が地域全体を紡ぎ直す

江東区生物多様性フェア2026で提示された5つの取り組みに共通しているのは、**「身近な足元にある小さなアクションが、思いがけない形で人や社会、そして自然環境に良い変化をもたらしている」**という点です。

市民の手による1本の草の保全や1袋の落葉集め、子どもたちの泥遊び、そして小さな花壇づくり。一見すると局所的・限定的に見える日常の営みが、データに基づき、相互に連携し合うことで、都市の生態系ネットワークを再生し、希薄化する地域コミュニティを温かく繋ぎ直しています。

このように都市の現場では、確かな「正の波及」が日々生まれています。

構造で解き明かす生物多様性:命のネットワークを形作る7つの視点

都市の足元で繰り広げられる草の根の活動は、一見するとローカルな地域活動に見えますが、その背景には地球規模で進行する巨大な環境構造と命のネットワークが存在します。

生物多様性(Biodiversity)とは、単に「珍しい生きものの数が多い」ことだけを意味する言葉ではありません。地球上のあらゆる命が複雑に絡み合い、互いを支え合う「基盤」そのものを指しています。

ここでは、世界の主要な研究機関や国際条約(IPBES、FAO、UNEP、CBD等)の最新データをもとに、生物多様性が持つ多角的な側面を「7つの視点」から紐解いていきます。


生物多様性の定義と「3つのレベル」

地球上には推計約3,000万種類もの生きものが生息しているとされています。生物多様性条約では、この多様性を**「生態系」「種」「遺伝子」**という3つの階層レベルで捉えています。

  • 生態系レベル:森林、湿地、河川、干潟、サンゴ礁など、生きものが暮らす環境の多様性。
  • 種レベル:動物、植物、昆虫、菌類、細菌など、地球上に存在する生きものの種類の豊富さ。
  • 遺伝子レベル:同じ種の中であっても、個体や地域群ごとに持つ遺伝的な情報の違いや個性の多様性。

これら3つのレベルが重なり合い、命が巡るサイクルや互いを支え合うネットワークが形成されています。人間もまたこの生態系の一部であり、空気、水、食料、気候の安定など、膨大な「生態系サービス(自然の恵み)」に全面的に依存して暮らしています。


地球規模で進行する「危機の現実」

現在、地球規模で生物多様性の喪失が急激に進行しています。IPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム)の地球規模評価報告書によると、世界で最大約100万種もの動植物が絶滅の危機に直面しています。

人間活動による影響は地球表面の大部分に及んでおり、陸域の約75%、海洋環境の約66%がすでに著しく改変されました。また、1700年時点で存在していた世界の湿地の85%以上が2000年までに消失しており、主要な陸域バイオームにおける在来種の平均個体数は1900年以降で20%以上減少しています。生物多様性の危機は未来の予測ではなく、すでに現在進行形で社会の足元を揺るがしている現実です。


生物多様性を揺るがす「5つの主要因」

UNEP(国連環境計画)の整理によると、生物多様性を衰退させている直接的な原因は主に以下の5つに集約されます。

  1. 土地・海の利用変化(森林伐採、都市開発、農地転換など)
  2. 天然資源の直接利用(過剰な捕獲や乱獲)
  3. 気候変動(平均気温の上昇、極端な気象の増加)
  4. 汚染(プラスチック汚染、化学物質、農薬の流出)
  5. 外来種の侵入

これらの中でも外来種問題の影響は甚大です。人間活動に伴って本来の生息域外へ持ち込まれた外来種は世界で3万7,000種以上に達し、世界で確認された絶滅事例の実に60%において主要な要因となっています。また、外来種による世界全体の経済的損失は年間4,230億米ドル(約60兆円以上)を超えると推計されています。


食料システムを支える「脆弱な基盤」

食の持続可能性(フードセキュリティ)も、生物多様性と分かちがたく結びついています。FAO(国連食糧農業機関)の報告によると、人類が歴史上で食用として栽培・利用してきた植物は約6,000種に上りますが、現在実質的な生産が行われているのは200種未満に過ぎません。

さらに驚くべきことに、世界の作物生産量全体の66%が、わずか9つの主要作物(米、小麦、トウモロコシなど)だけに依存しています。また、畜産分野においても特定品種への集中が進んでおり、特定の国や地域にしか存在しない局地的な家畜品種7,745種のうち、約26%が絶滅の淵に追いやられています。多様性を失った単一的な食料システムは、病害虫の発生や気候ショックに対して非常に脆弱であり、将来の食料供給における大きなリスク要因となっています。


暮らしと健康を陰で支える「生態系機能」

自然の恩恵は、日常の食べ物だけに留まりません。私たちが気づかないところで、多様な生物たちが都市生活や健康を支えています。

  • 花粉媒介(授粉):世界の主要な食用作物タイプの75%以上、生産量ベースで約35%がハチやチョウなどの花粉媒介者(ポリネーター)に依存しています。
  • 医薬品資源:現在使用されている近代医薬品の50%以上は、天然由来の成分や野生生物の化合物を化学的基盤として開発されています。
  • 水資源と環境浄化:健全な森林や湿地生態系は、世界の淡水資源の約75%を提供・精浄化し、洪水や土砂崩れを緩和する天然の防壁として機能しています。

これらの機能を人工インフラだけで代替しようとすれば、莫大なコストとエネルギーが必要となります。


人口集中と都市化の時代における「都市インフラとしての自然」

CBD(生物多様性条約)およびUNEPの報告によると、2050年までに世界人口の約70%が都市に居住すると予測されています。さらに、2030年までに都市化されると見込まれる土地の60%以上は、これから建設される段階にあります。

都市化の拡大は生態系を断片化させる圧力となる一方で、都市のデザイン次第では大きな機会にもなります。公園、ビオトープ、街路樹、屋上緑化、コミュニティガーデンといった都市の緑地や水辺領域は、単なる「修景(見た目の綺麗さ)」ではなく、熱島現象の緩和、雨水侵食の防止、住民のメンタルヘルス向上、生物の移動経路(エコロジカル・ネットワーク)を担う**「緑の機能インフラ(グリーンインフラ)」**として再定義されつつあります。


国際社会が目指す2030年目標「ネイチャーポジティブ」と「30by30」

2022年に開催された生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)において、「昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)」が採択されました。ここでは、2030年までに生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せる**「ネイチャーポジティブ(自然再興)」**の概念がグローバルな共通目標として掲げられました。

この枠組の中核をなすのが、**「30by30(サーティ・バイ・サーティ)」**目標です。これは2030年までに、地球の陸域・内水域および海域・沿岸域の少なくとも30%を健全な生態系として保全・管理することを目指す国際約束です。

この目標を達成するためには、国立公園のような公的な保護区だけでなく、企業の森、神社の鎮守の森、地域住民が管理する都市緑地などを「OECM(保護区以外の地域で生物多様性保全に資する地域)」や「自然共生サイト」として認定し、社会全体で保全の輪を広げていくことが不可欠とされています。


データが示す「つながり」の不可逆性

このように7つの視点からデータを俯瞰すると、生物多様性とは決して「遠くの森の希少生物を守る環境保護運動」にとどまらないことが分かります。食料、水、医療、都市防災、そして国際経済に至るまで、人間社会のあらゆる活動は自然の複雑なネットワーク(Web of Life)の上に成り立っています。

そして重要なのは、**「ネットワークのどこか1箇所が崩れると、その影響は一見関係のない別の場所へと連鎖的に波及していく」**という点です。

都市における市民の草の根活動(【見出し①】で触れた正の波及)と、大雨や増水によって予期せぬ地域へと被害が広がる問題。一見まったく異なるように見える2つの現象は、実はこの「命の連鎖構造」という共通のシステムの上で起きています。

一節の草がインフラを脅かす時代:バタフライ・エフェクトと日常の「兆し」

都市の足元で生まれる各団体の活動が、コミュニティや生態系に広範囲な好循環をもたらす「正の連鎖」を見せてくれた一方で、一見無関係に見える水辺の現場では、全く逆のベクトルを持つ「負の連鎖」が人々の暮らしやインフラを脅かしています。

それを強く実感させられたのが、2026年夏の千葉豪雨と、それに伴う「ナガエツルノゲイトウ」の拡散ニュースでした。


千葉豪雨と印旛沼で目撃した「最悪の侵略植物」の現場

南米原産の特定外来生物「ナガエツルノゲイトウ」は、乾燥にも水没にも耐えうる圧倒的な生命力を持ち、その繁殖力の高さから「地球上最悪の侵略植物」と称されています。水陸双方でマット状に密生し、在来の生態系を駆逐するだけでなく、農業用水路を塞ぎ、水稲の収穫に致命的な害を及ぼします。

ニュース記事では、大雨による洪水や浸水によって水路から西印旛沼周辺へとナガエツルノゲイトウが大量に流出し、治水設備や農地へと押し寄せている惨状が報じられていました。この現実を確かめるべく、実際に現地へと足を運びました。

治水と排水の要である**「大和田機場」を訪れると、増水時に漂着した水草や流木の除去・防除作業がすでに迅速に行われており、水害を防ぐためのインフラ維持の手厚い苦労が伺えました。一方、印旛沼の畔に位置する「佐倉ふるさと広場」**周辺では、水辺や水生植物の間にしっかりと根を張り、静かに生息域を広げようとするナガエツルノゲイトウの姿を実際に撮影・確認することができました。


わずか数センチの茎から始まる「負のバタフライ・エフェクト」

ナガエツルノゲイトウの最も恐ろしい特徴は、「茎のわずか1節(数センチ)」の破片からでも根を出し、爆発的に増殖するという点にあります。

草刈り機などで不用意に刈り取られた小さな茎の断片が、豪雨という気候現象(気候ショック)と結びついた瞬間、川を下り、印旛沼や水路へと広がり、最終的には排水機場のポンプを閉塞させたり、広大な水田の稲を倒伏させたりする巨大な被害へと発展します。

「蝶の羽ばたきが遠くの台風を引き起こす」という「バタフライ・エフェクト(気象学者エドワード・ローレンツが唱えた複雑系の概念)」のように、誰かが川辺で踏み折った小さな草の一節、あるいは見過ごされたわずかな外来種の群落という些細な出来事が、気候変動や社会インフラと複雑に絡み合い、巡り巡って地域経済や食料供給を揺るがす甚大な波及効果を生み出しているのです。


正と負の連鎖が交差する「複雑性の時代」

本記事で取り上げた2つの現場は、一見すると対極にあるように思えます。

  • 正の連鎖(江東区フェア): コミュニティガーデンの土いじり一回、子どもたちの泥遊び一回という小さな、けれども温かな関わりが、住民の孤立を防ぎ、都市のポリネーターを呼び戻す。
  • 負の連鎖(印旛沼・大和田機場): 水路に放置された草の1節、一度の豪雨という小さなきっかけが、インフラ閉塞や農業被害という巨大な危機へと拡大する。

しかし、この2つは全く別個の現象ではありません。どちらも**「一見ちっぽけに見える原因が、命や社会の複雑なネットワーク(Web of Life)を通じて予想もしない大きな影響へと化けていく」**という、同じシステムのメカニズムを示しています。

生物多様性の問題の本質とは、単に「絶滅危惧種を守る」ことだけではありません。「あらゆる命や出来事は孤立しておらず、目に見えない糸で繋がっている」という連続性を認識することにあります。


私たちは日常の「兆し」を見逃していないか?

この連鎖の構造は、生物多様性や地球環境の問題だけにとどまりません。社会課題の深化、ビジネスにおける事業の衰退やイノベーションの崩壊、職場や人間関係の不全、あるいは個人の健康や暮らしの乱れに至るまで——あらゆる巨大な問題のスタートは、常に「誰も気に留めないような些細な出来事(兆し)」から始まっています。

  • 「いつもと少し違う水辺の草の生え方」
  • 「日々の暮らしや自身の体調の中にふと現れる、わずかな不調や変化」
  • 「普段の買い物やスーパーの棚でふと気づく、微細な品揃えや価格の変化」
  • 「職場やコミュニティで生じた些細な違和感や居心地の悪さ」

これらを「自分には関係ない」「大したことではない」と素通りしてしまうか、それとも「この小さな芽が、巡り巡ってどんな未来に繋がっていくのだろう?」と足を止め、構造に思いを馳せることができるか。

大きな被害が起きてから対処する(対処療法)のではなく、日常に潜む微細な「兆し」に感度を持ち、小さな「正の芽」を育て、「負の芽」を摘んでいくこと。

バタフライ・エフェクトの時代を生きる私たち一人ひとりの日々の選択と眼差しこそが、巡り巡って、明日からの地域社会と豊かな生命の未来をつくっています。

あなたは今日、足元にあるどんな「兆し」に目を向けますか?

出典・参考文献一覧(記事末尾用)

【現地取材・イベント】

  • 江東区生物多様性フェア2026(2026年7月18日開催、江東区文化センター)各出展パネル・発表資料
  • 佐倉ふるさと広場・大和田機場 現地観察(2026年7月・10月取材)

【データ・ニュース出典】

  • IPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム)『地球規模評価報告書』『外来種とその管理に関するテーマ評価報告書』
  • FAO(国連食糧農業機関)『世界の食料と農業のための生物多様性の現状報告書』
  • UNEP(国連環境計画)・CBD(生物多様性条約)『都市と生物多様性の概況(Cities and Biodiversity Outlook)』
  • 生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)『昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)』
  • テレビ朝日系(ANN)ニュース『豪雨で“消えた最悪侵略生物”どこに?』(2026年8月配信)

あとがき

ライターのあおやんです。
最後まで読んでくださってありがとうございました。
今回はナガエツルノゲイトウを探しに佐倉ふるさと広場にも足を延ばしました。
こちらにはかぼすちゃんのモニュメントもあったみたい、事務所に戻って記事を書いているときに気付きました。写真撮ってくればよかった。。。
しかし抹茶ソフトをしっかり堪能、おいしい!
サステの取材であちこち出かけていると、地元の「楽しい」に出会えます。
こんな偶然を楽しみながら、これからも記事を書き続けていきたいと思います。


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