不確かさを受け入れるということ――里親制度と「共に育む」社会の問い

社会課題

大人になるにつれて、私たちは傷つくリスクを避け、予測可能な「コントロールできる日常」を作り上げていきます。しかし、自分とは異なる視点を持つ子どもや、不確かさのある新しい存在を人生に招き入れたとき、そこにはどのような世界が広がるのでしょうか。 2026年10月に開催された「里親制度シンポジウム」で語られた里親・里子当事者の生の声と、最新の公的データから、社会的養護の現状と社会全体で子どもを育む「チーム養育」の本質を紐解きます。

サステナブルーの活動はパートナー企業によって支えられています。

【この記事を読むことでわかること】

  • 里親制度の基本構造と当事者の話:制度の目的と、当事者が体験した葛藤・変化のリアル
  • 公的データで見る日本の現状と課題:保護者の孤立や被虐待など構造的要因と、子どもへの影響、里親等委託率の推移、諸外国との比較、ケアリーバーが直面する現実
  • 社会全体で支える「関わり方のグラデーション」:一人ひとりが日常で踏み出せる具体的なアクションと本質的な問い

社会的養護と里親制度の基本構造――シンポジウムから紐解く当事者たちの軌跡と強い思い

現代の日本において、様々な事情により生まれ育った家庭で暮らすことができない子どもたちが存在します。こうした子どもたちを公的責任で保護し、健やかに育てる仕組みが「社会的養護」です。まずは、社会的養護の根幹をなす「里親制度」の全体像を整理したうえで、こども家庭庁主催の「里親制度シンポジウム」で語られた里親・里子当事者の生々しくも温かい実体験と言葉に耳を傾けていきます。


子どもを社会全体で育む「里親制度」の概要と4つの種類

現在、日本国内で社会的養護のもとで暮らす子どもは全国で約4万2,000人にのぼります。その背景には、保護者の病気や離婚、不慮の事故をはじめ、過酷な経済的困窮や虐待など、一家庭の努力だけでは解決できない多層的な課題が存在しています。

こうした子どもたちに対し、かつては乳児院や児童養護施設などの「施設養護」が主流でした。しかし、平成28年の児童福祉法改正に伴い「家庭養育優先の原則」が明記され、より家庭に近い環境で特定の大人との温かい愛着関係を形成することが、子どもの健やかな発達に不可欠であるという認識が広がっています。

児童福祉法に基づく「里親制度」には、養育の目的や子どもの状況に応じた主に4つの類型が定められています。

  • 養育里親:保護者のもとで暮らせない子どもを、一定期間自らの家庭に迎え入れて養育する里親(最も一般的な形態)。
  • 専門里親:虐待経験や障害、非行傾向など、より専門的なケアや支援を必要とする子どもを養育する里親。
  • 養子縁組里親:特別養子縁組などを前提とし、将来的に法的な親子関係を結ぶことを目的として養育する里親。
  • 親族里親:保護者の死亡や行方不明などにより、祖父母や叔父・叔母などの親族が代わりに養育する里親。

どの形態であっても共通しているのは、単に「居場所を提供する」ことにとどまらず、子どもの権利を守り、健やかな成長を社会全体で支えるという重要な役割を担っている点です。


【里親側の視点】「大人のためではなく、子どものための制度」――一歩を踏み出した葛藤と発見

制度の理解を深めるうえで不可欠なのが、現場で子どもを迎え入れている里親自身のリアルな声です。シンポジウムに登壇したご夫婦は、自らの体験談を語ってくれました。

登録に至る経緯と「意識の転換」

登壇された夫婦は、不妊治療の節目を迎えたのち、たまたま目にしたパンフレットをきっかけに児童相談所の門を叩きました。その際、担当者から告げられた**「里親制度は大人(親)の望みを叶えるためのものではなく、子どもの権利と福祉を守るための制度である」**という言葉に強く納得し、登録を決意したといいます。大人側の都合や期待を優先するのではなく、子どもの最善の利益を第一に考える視点こそが、里親養育の出発点となります。

委託初期の戸惑いと「家庭に迎えること」への葛藤

ご夫妻が当時5歳の女の子を家庭に迎えた当初は、戸惑いと葛藤の連続でした。施設で育った子どもは、周囲の大人全員が「自分を見てくれる存在」だと認識していることがあり、散歩中に出会った見知らぬ大人にも自分から手を繋ぎに行ってしまうような行動が見られました。また、環境の激変に子ども自身も困惑し、連日泣き叫ぶ姿を前に「この子を家庭に引き取ることが、本当にこの子にとって幸せなのだろうか」と、夫婦で夜な夜な悩んだといいます。

こうした困難を乗り越える支えとなったのは、先輩里親や地域のネットワークからの助言でした。子どもが見せる激しい感情の乱れは、里親個人への拒絶ではなく、「実の親にぶつけられなかった不安や怒りを、安全だと感じ始めた目の前の里親にぶつけている証拠だ」と教えられたことで、夫婦は過度な自分責めから解放され、子どもの心に寄り添う覚悟を深めていきました。

日常の再発見と大人側のゆるやかな変化

大人同士の夫婦生活では、お互いに適度な距離感を保つのが一般的です。しかし、そこへ子どもの純粋な好奇心が加わることで、大人が築き上げた固定観念や「当たり前の日常」が鮮やかに塗り替えられていきます。

例えば、大人が風邪で寝込む姿すら子どもにとっては初見の出来事であり、一つひとつの出来事を新鮮に受け止める姿を通して、大人側も日常の小さなおかしみや発見を再体験させてもらいます。子どもという異質な存在と暮らすことで、自分の知らない一面や柔軟性に気づかされ、お互いの信頼関係を少しずつ育んでいくプロセスの豊かさが語られました。


【里子当事者の視点】「形ではなく中身から育まれた関係」――当たり前の日常がもたらす安心

一方、里子として育った当事者(ユース)の視点も、里親制度が子どもに何をもたらすのかを本質的に教えてくれます。シンポジウムに登壇した青年は、自らの生い立ちと里親家庭での日々を振り返りました。

過酷な環境からの保護と最初の不安

彼は幼少期、父親からの日常的な暴力という過酷な虐待環境に置かれていました。小学3年生の時に警察と児童相談所に保護され、一時保護所での生活を経て、70代の里親夫婦のもとへ委託されることになります。

当時は「明日から見知らぬ大人を『お父さん』『お母さん』と呼ばなければいけないのだろうか」という強い緊張と抵抗感を抱いていたといいます。しかし、迎えてくれた里親は最初の日にこう声をかけました。

「無理にお父さん・お母さんと呼ばなくていいよ。おじさん、おばさんと呼びなさい」

無理に形式的な「親子」を演じさせるのではなく、一人の人間として対等に向き合ってくれたこの一言によって、坂本さんの心の緊張は一気に解きほぐされました。

「当たり前の暮らし」が育む自立への土台

里親家庭で過ごした日々の中で、坂本さんが最も感謝しているのは**「当たり前の日常」**の存在でした。

朝起きて挨拶を交わすこと、温かいご飯を一緒に食べること、安心して学校へ行き、夜はお風呂に入って布団で眠ること――。かつての生活には存在しなかった「安全で予測可能な日常」が保障されたことで、初めて自分の将来や夢について考える余裕が生まれたと語ります。

安易に甘やかさない「本気で向き合う」本当の愛情

また、大学進学を希望した際に見せてくれた里親の「真剣で厳しい姿勢」も、彼の自立を支える大きな糧となりました。

高校生の時に大学へ行きたいと進路を切り出した際、里親は単に「いいよ」と全肯定するのではなく、「なぜ大学へ行きたいのか」「学費はどう工面する計画なのか」「これまでどんな努力や実績を重ねてきたのか」を厳しく問いかけ、安易な賛同を示しませんでした。当時は「何でも認めて応援してくれる大人が良い大人だ」と考えていた彼にとって、その問いかけは時に冷たく、壁のように感じられることもありました。

しかし、実際に奨学金の申請や面接試験に臨む中で、その姿勢の真意を知ることになります。里親から事前に「なぜ学ぶのか、どう生きていくのか」という問いを突きつけられ、自分自身の言葉で計画と想いを整理するプロセスを経ていたからこそ、面接の場でも自信を持って自立への意思を語ることができ、見事奨学金を獲得して大学進学を果たしたのです。

「本気で自分の将来を心配しているからこそ、甘やかすのではなく正面から向き合い、耳の痛いことも含めて伝えてくれたのだ」と気づいたとき、それこそがただの優しさを超えた「本当の愛情」であったと、今でも深い感謝とともに振り返っています。

形だけの家族像にとらわれず、日々の生活を共に重ねる中で「中身」から信頼関係を築いていくこと。そして「自分を温かく見守ってくれる大人がいる」という確信こそが、子どもが社会へ羽ばたくための不可視の安全基地となります。

データでわかる里親・里子を取り巻く環境――日本の現状と直面する構造的課題

第1章では、里親制度の基本概要と、シンポジウムで語られた当事者の実体験を見てきました。続く本章では、客観的な公的データや調査研究をもとに、社会的養護下にある子どもたちの現状、日本の里親委託率の推移、諸外国との養育構造の違い、そして制度を支える里親家庭や自立を迎える若者(ケアリーバー)が直面する課題をデータから学びます。

子どもたちが社会的養護を必要とする要因と、心身へ及ぶ多様な影響

社会的養護の実態や制度的な課題をデータから紐解くにあたり、まず理解しておかなければならないのは、「なぜ子どもたちが生まれ育体した家庭を離れざるを得なくなるのか」という発生要因と、「その体験が子どもたちの成長や心身にどのような影響を与えるのか」という実態です。

1. 子どもが社会的養護を必要とする主な要因

子どもが公的保護や代替養育を必要とする背景には、保護者個人の問題にとどまらず、貧困、孤立、精神的困窮など、社会構造的な困難が複雑に絡み合っています。

こども家庭庁等の公的調査データによると、社会的養護のもとで暮らす子どもたちの保護理由として最も高い割合を占めるのが**「保護者による虐待」であり、全体の45.2%にのぼります。次いで「保護者の精神疾患等(15.6%)」、「破産等の経済的理由(4.9%)」、「父母の不和・離婚(4.7%)」、「病気や死亡・行方不明」**などが続いています。

保護・委託が必要となる主な背景理由構成割合(目安)具体的な状況・事例
保護者による虐待45.2%ネグレクト(放任・怠惰)、身体的・心理的虐待、性的虐待
保護者の精神疾患・病気15.6%精神的不調や重篤な疾患による養育能力の低下
経済的困窮・破産4.9%深刻な困窮や生活基盤の破綻
家庭の崩壊・不在約10〜15%父母の不和、離婚、死亡、行方不明、拘禁など

特に、近年では複数の要因(例:経済的困窮と親の精神的不調、そこから派生するネグレクトなど)が重なった結果として家庭での養育が限界に達し、一時保護や代替養育へつながるケースが顕著となっています。

2. 過酷な体験や生活環境の変化が子どもに及ぼす影響

こうした生育環境での逆境体験(ACEs)や、生まれ育った家庭からの分離という体験は、子どもたちの心身の発達や人間関係の形成に深く複雑な影響を与えます。

  • 愛着(アタッチメント)形成の課題: 乳幼児期に特定の保護者との間で安全で確実な信頼関係(愛着)を築けなかったことにより、「人は自分を助けてくれない」「世界は危険な場所だ」という根深い対人不信感を抱きやすくなります。
  • トラウマと心身の症状・発達への影響: 被虐待体験や分離による強い心理的ショックから、PTSD(心的外傷後ストレス障害)や反応性愛着障害を呈したり、情緒の著しい不安定さ、パニック、睡眠障害、食行動の異常などが現れることがあります。また、社会的養護下にある子どもの約3割〜5割(施設や養育形態により異なる)が、ADHDやASDなどの発達障害や心身の課題を複合的に抱えていると報告されています。
  • 感情統制の難しさと「試し行動」: 大人への警戒心や不快な感情を適切な言葉で表現できないため、激しい感情の乱れ(暴言・暴力、器物破損など)や、周囲の大人がどこまで自分を受け止めてくれるかを確認しようとする「試し行動」、あるいは自分の本心を極度に隠してしまう「過剰適応」といった形で不安が表面化することがあります。
  • 自己肯定感の低下と未来への希望の持ちづらさ: 「自分は愛される価値がない存在なのではないか」という自己否定感を深めてしまうことで、自分の将来や将来の夢に対して前向きなイメージを持ちにくくなり、日々の当たり前の生活や学習への集中が阻害される傾向が見られます。

こうした子どもたちが抱える傷や生きづらさは、決して子ども自身の資質によるものではなく、保護されるまでの過酷な生活環境や分離のストレスに起因するものです。だからこそ、単に安全な居場所を提供するだけでなく、専門的な心理ケアや、特定の大人との温かい生活を通した「育ちなおし」の機会を社会全体で保障していくことが求められています。


日本の社会的養護の全体像と「里親等委託率」の現在地

現在、日本国内で保護者のない子どもや、家庭での養育が不適切または困難と判断された子どもなど、公的責任による社会的養護のもとで生活している子どもは全国で約4万2,000人にのぼります。

家庭環境での養育が困難な子どもたちの代替養育にあたっては、かつて乳児院や児童養護施設などの「施設養護」が大部分を占めていました。しかし、平成28年(2016年)の児童福祉法改正により、児童が家庭と同様の環境で特定の大人と安定した愛着関係を形成しながら育つべきだとする「家庭養育優先の原則」が法律上明確化されました。

これを受けて平成29年(2017年)に国が定めた方針(「新しい社会的養育ビジョン」等)では、年齢区分に応じた明確な里親等委託率の目標値が以下のように提示されました。

  • 3歳未満児および未就学児:里親等委託率 75%以上(就学前までの家庭養護を原則化)
  • 学童期以降:里親等委託率 50%以上

目標値と実績値にみられる格差

しかし、最新の公的統計が示す実績は、国の掲げる目標数値とは大きな隔たりが存在するのが現状です。

厚生労働省およびこども家庭庁の発表資料によると、社会的養護下にある子どものうち、里親やファミリーホームへ委託されている子どもの割合(里親等委託率)は、全国平均で23.5%〜24.3%(令和3〜4年度末時点)となっており、依然として全体の約8割の子どもが施設で暮らしています。

年齢別の実績値を見ても、以下の通り低調な推移となっています。

年齢区分国の目標値令和3年度末実績令和4年度末実績
3歳未満児75.0% 以上25.3%26.2%
3歳以上〜就学前75.0% 以上30.9%31.5%
学童期以降50.0% 以上21.7%22.5%

自治体間に存在する著しい委託率の格差

さらに、里親等委託率は地域ごとの取り組み状況やインフラによって大きな偏りが生じています。令和4年度末の都道府県・指定都市別の調査データによると、全国平均(24.3%)に対し、委託率が最も高い自治体は**福岡市の59.4%であるのに対し、最も低い自治体は宮崎県の10.2%**にとどまっており、約50ポイントもの著しい地域格差が生じていることがわかります。


諸外国との比較から見える日本の養護構造の特徴

日本の社会的養護が施設中心の構造となっている背景や位置づけを理解するうえで、諸外国における代替養育のデータとの比較はきわめて有効です。

各国の制度設計や統計上の定義には相違があるものの、国際機関(国連の「子どもの代替養育ガイドライン」など)では、特に乳幼児期における施設養護を極力避け、家庭環境で育てることの重要性が提唱されています。

主要国における社会的養護下の子どもの「里親委託率(家庭養育割合)」の国際比較データは以下の通りです。

国・地域名全年齢の里親委託率乳幼児期の里親委託率
アメリカ合衆国(全体)81.9%〜82%(※州ごとに異なる)
米国カリフォルニア州89%〜90.5%97.7%〜98.7%
イングランド(イギリス)68%〜81.1%96.1%
スウェーデン64%〜72.4%69.0%〜77.6%
ドイツ50.3%83.8%
日本23.5%〜24%25.3%

欧米主要国においては、社会的養護を必要とする子どもの約5割から8割以上が里親家庭や親族里親(キンシップケア)のもとで養育されており、とりわけ乳幼児期に関しては施設措置を行わない方針を撤底している国が多くみられます。

これに対し、日本は施設養護の質や設備が高度に発達してきた歴史的背景がある一方で、家庭的養育への移行速度が遅く、施設依存度が諸外国に比べて際立って高いという客観的特徴がデータから浮かび上がります。


里親家庭の実情――登録里親のミスマッチと養育支援体制の課題

里親等委託率が伸び悩んでいる原因は、単に「里親になりたい人が不足している」という理由だけではありません。登録制度やサポート体制における構造的な摩擦がデータから確認できます。

1. 登録里親の増加と「未委託里親」の存在

全国の登録里親世帯数は、平成24年度末の9,392世帯から令和3年度末には1万5,607世帯へと、この10年間で約1.7倍に増加しています。

しかし、登録された里親のうち、実際にお子さんが委託されていない**「未委託里親」が全体の約7割**を占めています。この背景には、里親側が希望する子どもの年齢層(乳幼児希望など)と、実際に公的保護を必要としている子どもの年齢や状況(被虐待経験や障害、専門的ケアの必要性)との間にミスマッチが存在することが挙げられます。

さらに、里親登録後の家庭事情や健康状態の変化、あるいは登録後のフォローアップ機会の不足などにより、意欲がありながらも子どもを受け入れられていない家庭が多く存在しています。

2. 里親の年齢構成と「働きながらの養育」

厚生労働省による「里親家庭における養育実態と支援ニーズに関する調査研究」のデータによると、里親を担う世代のリアルな背景が見えてきます。

  • 里母の年齢構成:40代(33.8%)と50代(33.4%)が全体の約3分の2を占め、60代が21.2%、30代以下はわずか6.6%です。
  • 里母の就労状況:無職・専業主婦が46.3%である一方、正社員(11.6%)やパート・アルバイト等(26.0%)を含む49.1%の里母が仕事を持ちながら養育を担っています。

里親家庭の高齢化とともに、共働き世帯の増加という現代的な社会構造の変化が進む中で、里親個人や一家庭の努力だけに養育の負担を委ねることは限界を迎えています。養育の不調や孤立を防ぐため、レスパイトケア(一時休息支援)や、新たに法制化された「里親支援センター」等による包括的なチーム養育体制の構築が急務となっています。


自立を迎える子どもたち(ケアリーバー)が直面する現実と社会的課題

里親家庭や児童養護施設などの社会的養護のもとで育ち、原則18歳(あるいは22歳までの措置延長等)を迎えて社会的養護から自立する若者を「ケアリーバー(Care Leaver)」と呼びます。

彼らが社会へ旅立った後に直面する厳しい客観データは、単に「育てる」ことにとどまらず、自立後まで見据えた持続可能な支援(アフターケア)の不可欠性を物語っています。

1. 進学率と就職後の離職率における課題

特定非営利活動法人ブリッジフォースマイル(Bridge for Smile)や関係機関の追跡調査によると、社会的養護出身者の高校卒業後の進路には大きなハードルが存在します。

  • 大学等への進学率:一般世帯の進学率が8割を超える現代において、ケアリーバーの大学等進学率は39.8%(2024年度調査)にとどまっており、近年は上昇傾向から伸び悩みに転じています。
  • 正社員就労者の高い離職率:高校卒業直後に正社員として就職したケアリーバーであっても、**入社から3か月後に14.3%、1年3か月後には44.9%**が最初の職場を離職しています。就職3年目までを含めると、約6割が離職に至るという報告もなされています。

2. 頼れる実家(安全基地)の不足と住居失職リスク

一般的な若者であれば、職場や学校で挫折した際に実家に一時避難したり、親からの金銭的・精神的援助を受けることができます。しかし、実家や保護者に頼ることが困難なケアリーバーの場合、離職と同時に「社宅や社員寮などの住まいを即座に失う」という重篤なリスクに直面します。

実際に、18歳や19歳で就職するケアリーバーの3割以上が勤務先からの住宅支援(寮・借り上げ住宅)に依存して生活をスタートさせており、人間関係の悩みや体調不良で離職した途端に、住まいと収入を同時に失い困窮へ陥るケースが後を絶ちません。

近年では、民間企業や自治体が雇用と生活面を包括的に支える「職親(しょくおや)」制度や、2024年4月からの改正児童福祉法による年齢制限の撤廃・緩和など、自立後も継続して相談・支援を受けられるセーフティネットの整備が進められています。

「コントロールできる日常」を一歩踏み出し、社会全体で育み合う未来へ――私たち一人ひとりにゆだねられた「関わり方」

第1章ではシンポジウムで語られた当事者たちの生の軌跡と温かい思いに耳を傾け、第2章では最新の公的データから日本の社会的養護が直面する構造的課題やケアリーバーの現実を客観的に学んできました。

最終章となる本章では、ここまでの学びと分析を統合し、里親制度というテーマを超えて、私たちが日々を生きるうえで向き合うべき本質的な「問い」と、社会全体で子どもを育むための具体的な関わり方について深く考察していきます。


大人が築く「安全な日常」と、不確かさを受け入れる葛藤

私たちは大人になるにつれて、これまでの経験や知識を糧に「できること」や「予測できること」で身の回りを固め、傷つくリスクを最小限に抑えるための「コントロール可能な日常(コンフォートゾーン)」を作り上げていきます。

しかし、そこへ子どもという、自らの思い通りにはならない「新しい存在」を招き入れることは、大人が大切に保持してきた固定観念や生活のペースを揺さぶられる体験でもあります。大人同士の暮らしであれば適度な距離感を保ち、不調和を避けることができますが、まっすぐな好奇心でぶつかってくる子どもとの生活では、大人側の隠された感情や不器用な一面が剥き出しになる場面も少なくありません。

試行錯誤のプロセスが育む関係性

親であれ里親であれ、最初から完璧な能力や覚悟を備えた人間など存在しません。子どもが直面する成長や発達の段階、あるいは抱える課題に合わせて、自分自身の関わり方や価値観を柔軟に変化させていく――。この半ば強制的とも言える日々の試行錯誤と戸惑いのプロセスを経て、初めて互いの信頼関係や絆が中身から育まれていきます。

自分の知らなかった一面と出会い、日々の当たり前の光景を子どもの視点から再発見していくこと。それは、大人が「予測可能な安全圏」から一歩踏み出し、不確かさを受け入れたからこそ得られる、人生の豊かな経験なのかもしれません。


「家庭の自己責任」を超えて――孤立を防ぐ「チーム養育」への転換

ここで私たちが強く認識しなければならないのは、**「我が子や里子に向き合い、試行錯誤を重ねる葛藤や責任を、一家庭や特定の大人だけに抱え込ませてはならない」**という点です。

第2章で確認した通り、社会的養護を必要とする背景には、親個人の努力や覚悟だけでは抗えない深刻な困窮、病気、孤立が存在しています。また、里親委託が始まった後も、子どもが見せる激しい試し行動やトラウマへの対応に一人で悩み続けた結果、養育者が精神的に疲弊し、養育不調(委託解除)へと追い込まれてしまうケースが少なくありません。

「自己責任論」から「社会的養育」への転換

「親なのだから」「里親を引き受けたのだから」という言葉で家庭の中に責任を閉じ込めてしまう構造は、養育者を孤立させ、結果として子どもたちの安心できる居場所を奪うことにつながります。

現在、行政や福祉の現場では、児童相談所や里親支援センター、フォスタリング機関、医療・教育機関、そして地域社会が一体となって子どもと家庭を支える**「チーム養育」**の体制整備が進められています。

里親制度とは、一部の特別な人が一人で子どもを抱え込む制度ではなく、**「社会全体でチームとなり、多様な大人の手とまなざしで子どもを育んでいくための仕組み」**なのです。


関わり方のグラデーション――「みんなで支える」を具体化する4つのアクション

「社会全体で支えよう」という言葉は、しばしば抽象的な標語として通り過ぎてしまいがちです。しかし、私たちが日常の中で果たすことのできる役割には、自らの生活環境や状況に応じた多様なグラデーション(関わり方の選択肢)が存在します。

専業の養育里親になることだけが支援ではありません。以下に示すような多層的なアプローチを通じて、誰しもが社会的養護の「チームの一員」として関わることができます。

1. 短期委託(週末里親・季節里親)やショートステイ事業

児童養護施設などで生活する子どもを、週末や夏休みなどの短期間(数日間程度)だけ家庭に迎え入れ、家庭生活の温もりや地域での体験を提供する「週末里親」や、保護者の病気や休息の際に一時的に子どもを預かる「子育て短期支援事業(ショートステイ)」という仕組みがあります。 フルタイムでの長期養育が難しい家庭であっても、こうした短期の関わりを通じて子どもの「斜めの関係(親でも先生でもない第三者の大人)」となり、安心感を届けることが可能です。

2. レスパイトケアやボランティアによるサポーター活動

日々子どもと向き合う里親家庭や保護者が、精神的・身体的なゆとりを取り戻すための「レスパイトケア(一時休息支援)」の受け手となったり、地域で開催される「里親サロン」や交流イベントの運営をボランティアとして支える関わり方です。 「困ったときはお互いさま」と言える地域の受け皿が存在することが、養育者の孤立やバーンアウトを未然に防ぐ強力なセーフティネットとなります。

3. ケアリーバー(社会的養護出身者)を支える「職親」や社会的伴走

18歳等で社会的養護を旅立つケアリーバー(社会的養護出身の若者)に対し、住まいや雇用の場を提供して温かく見守る「職親(しょくおや)」企業としての参画や、社会人メンターとしての就労・生活支援の伴走です。 頼れる実家を持たない若者たちが、離職や孤立によって途方に暮れることがないよう、地域社会や企業の側が「失敗しても戻れる安全基地」を用意することが求められています。

4. 正しい知識を持ち、「温かいまなざし」で地域で見守ること

最も基本的でありながら強力な関わりは、社会的養護や里親制度について正しい知識を持ち、偏見のない温かいまなざしを地域に向けることです。 学校や幼稚園、近隣住民が制度の意義を正しく理解し、温かく接してくれること自体が、里親家庭や子どもたちにとって大きな救いとなります。

【社会的養護を支える関わりのグラデーション】

[養育里親・養子縁組里親]
  ▲  家庭で長期的に生活を共にし、健やかな育ちを育む
  │
[週末里親・ショートステイ]
  ▲  週末や短期間、施設の子どもを家庭に迎えて体験を届ける
  │
[レスパイト支援・地域サロン活動]
  ▲  養育者の休息を支え、孤立を防ぐネットワークをつくる
  │
[職親・ケアリーバー支援]
  ▲  自立を迎える若者に雇用や住まい、相談相手を提供する
  │
[正しく知り、温かく見守る理解者]
      制度を理解し、地域や職場から温かいまなざしを注ぐ

私たちが日常から踏み出せる、小さな一歩とは

今回の「里親シンポジウム」への参加と当事者たちの言葉、そして客観的なデータから浮かび上がってきたのは、単なる制度の解説にとどまらない、現代社会を生きる私たち全員への問いかけです。

  • 「私たちは大人になるにつれて、傷つかないための『予測可能な安全圏』の中に留まり続けてはいないだろうか?」
  • 「自分とは異なる存在や不確かさを人生に招き入れ、個人の孤立ではなく『共に支え合う関係』を築くために、今日からできる小さな関わりは何だろうか?」

この問いは、子どもがいる・いないという立場や、里親制度への関心の有無を問いません。障害のある人との共生、地域の過疎化や課題解決、多様な背景を持つ人々との関わりなど、現代社会が抱えるあらゆる課題の根底に通じる「他者とともに生きるための姿勢」そのものです。

完璧な環境や完璧な答えを用意できる人など、どこにもいません。だからこそ、自分のコントロールできる世界から少しだけ足を踏み出し、周りの人と手を携えながら試行錯誤を重ねていくこと――。

その小さな変化と関わりの集積こそが、様々な社会課題に直面する我々が安心して暮らせる社会の一歩なのかもしれません。

4. 出典・参照資料リスト

あとがき

ライターのあおやんです。最後まで読んでくださってありがとうございました。

このシンポジウムの第三部では映画『赤毛のアン』の上映会がありました。実は、この映画のベースとなったテレビアニメ版『赤毛のアン』には、『機動戦士ガンダム』の富野由悠季監督も若き日に絵コンテとして制作に関わっていらっしゃいます(ぴあ映画のニュースより)。

孤児のアンが家庭に迎えられて愛を知る物語に触れ、私はちょうどいま、ファーストガンダムをおさらいしているところです。
ガンダムに登場する戦争孤児のカツ・レツ・キッカも、戦後はハヤトとフラウの温かい家庭に「養子」として迎えられました。

もし、この里親・養子としての縁がなかったら――。劇中でニュータイプの片鱗を見せていた彼らは、軍の研究所で非人道的な実験体(強化人間)にされていたのではないか。あるいは、後年のガンダム作品に登場するシャングリラ・コロニーのような、大人たちの庇護のない劣悪な環境で過酷に生きるしかなかったのではないか。そんなことまで深く考え込んでしまいました。

居場所があるということ、そして彼らを迎えた「家庭」という存在がいかに子どもの未来を守るか。そんな人間性の光を、アンの物語とガンダムの地続きの系譜のなかに、改めて考えさせられた一日でした。


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