人間も自然の一部。ホタルが教えてくれた、放置ではなく『手入れ』という新しい共生の形

社会課題

こんにちは、いつも読んでくださってありがとうございます。
今回は愛犬のレオと一緒に千葉県内でホタルを探しに行ってきました。

この記事を読むことでわかること

人間と自然の新しい関係性:自然を単に「放置」するのではなく、人間が適切に「手入れ(管理)」し続けることで守られる里山のような「二次的自然」の価値を再発見できます。人間は「破壊者」ではなく、自然を豊かにする「パートナー」になれるという希望ある視点を得られます。

身近な自然の異変と指標:千葉県佐倉市といすみ市の対照的な事例を通じ、ホタルの消失が単なる情緒的損失ではなく、水辺環境の悪化や「光害(ひかりがい)」を示す深刻なサインであることを理解できます。

生物多様性と生活・経済の直結:世界のGDPの半分以上(約44兆ドル)が自然資本に依存している事実や、昆虫(受粉者)がいなくなることで食卓の栄養バランスが崩れ、食料価格が高騰するという「暮らしへの実害」をデータで学べます。

「ネイチャーポジティブ」への転換:生物多様性の損失を止め、回復へと反転させる「自然再興」の重要性と、その第一歩が「現状を知ること」であることを提示しています。

消えゆく光と、残された光――千葉県佐倉市・いすみ市を歩いて

初夏の訪れを告げる風物詩、ホタル。かつて日本の至る所で見られたその幻想的な光が、今、私たちの身近な場所から静かに姿を消しつつあります。今回、私はホタルの現状を確かめるべく、千葉県内の2つの地域を訪問しました。

最初に訪れたのは、佐倉市のユーカリが丘エリアです。この地で先祖代々の畑を受け継ぎ、整備を続けている若者にお話を伺うことができました。彼によれば、2019年頃(約5年前)までは当たり前のようにホタルの姿が見られたといいます。しかし、ここ数年で状況は一変し、近隣住民の間でもホタルの話題はぱったりと途絶えてしまいました。私自身も現地に足を運び、夜の8時過ぎまで粘って周囲を観察しましたが、ついにその光に出会うことは叶いませんでした。かつては確かに存在したはずの命の灯火が、なぜこれほど短期間のうちに失われてしまったのか。暗闇の中に広がる静寂は、温暖化や水質の変化、あるいは都市化に伴う「光害」といった深刻な環境変化を無言で物語っているようでした。

あきらめきれず、次に足を伸ばしたのは、同じ千葉県内でもホタルの自生地として知られる**いすみ市の「山田源氏ぼたるの里」**です。そこには、佐倉市で失われつつある風景がまだ守られていました。

水田が広がる神田橋付近の夜空に、スーッと一条の光が線を引くように現れては、儚く消えていく。その幻想的な光景を目の当たりにした時、同じ県内でありながら、これほどまでに対照的な現実が存在することに強い衝撃を覚えずにはいられませんでした。

携帯のカメラでは上手に撮れず、なにがなんだかわかりませんが。

空中で描かれるホタルの光の軌跡は、単なる情緒的な美しさだけではありません。それは、その土地の**水辺環境の健全さや、夜の適切な暗さが保たれていることを示す「指標」**でもあります。佐倉市で見られなくなった現状と、いすみ市で今なお舞うホタルの姿。この二つの風景を繋ぐものは何なのか。私たちは、知らず知らずのうちに何を失い、そして何を守るべき段階に来ているのでしょうか。

本記事では、このホタルの減少を入り口に、最新のデータと環境省が提唱する「ネイチャーポジティブ(自然再興)」の観点から、小さな生き物たちの喪失が私たちの暮らしや食卓にどのような影響を及ぼすのかを深く掘り下げていきます。

小さな命の喪失が招く「暮らしの土台」の崩壊

佐倉市でホタルが姿を消したという事実は、決して局所的な問題ではありません。地球規模で見ると、現在、生き物たちの絶滅速度は過去1,000万年の平均と比べて少なくとも数十倍から数百倍に達しており、これは恐竜が絶滅した時よりもはるかに速いスピードです(IPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学―政策プラットフォーム)地球規模評価報告書(2019)参照)。私たちが目撃しているのは、単なる季節の移ろいではなく、生態系の急速な「崩壊」の始まりなのです。

生態系サービス:自然が無償で提供する「インフラ」

私たちの社会経済は、生物多様性がもたらす「生態系サービス」という名の巨大な基盤の上に成り立っています。これは、単に美しい景色を楽しむといった「文化的サービス」にとどまりません。酸素の供給や土壌形成を担う「基盤的サービス」、食料や水、医薬品の原料となる「供給サービス」、そして山地災害の防止や気候調整を行う「調整サービス」といった、私たちが生存するために不可欠な機能が含まれています。

世界経済フォーラムの推計によれば、世界のGDPの半分以上(約44兆米ドル)が自然資本に依存しており、その劣化は経済に致命的な影響を与えると予測されています。小さな生き物たちの消失は、私たちの財布や企業の経営に直結するリスクなのです。

食卓を支える「受粉者」という立役者

特に、ホタルと同様に「小さな昆虫」であるミツバチやチョウなどの**受粉者(ポリーネーター)**の減少は、私たちの食卓にダイレクトな影響を及ぼします。 IPBESの報告によれば、世界の主要農作物の4分の3以上は、昆虫や鳥などによる花粉媒介に依存しています。また、FAOのデータでは、受粉者は世界の作物生産の35%に影響を及ぼし、主要食料作物87品目の生産量を支えていることが示されています。

もし、これらの小さな生き物がいなくなれば、何が起こるのでしょうか。

  1. 食料供給と栄養の偏り: ビタミンが豊富な果物や野菜の生産量が激減し、食生活の質の低下や栄養バランスの悪化を招きます。例えばリンゴ、イチゴ、ナッツ類などはもちろん、根菜類「種子」などを採るためにも昆虫は活躍しています。
  2. 価格の高騰: 自然が担っていた受粉プロセスを人工授粉に替えるためのの労働力が必要になり、結果として食料価格が上昇します。FAO(国際連合食糧農業機関)のデータによると、世界の主要農作物の4分の3以上(主要食料作物では87品目)が、少なくとも一部で昆虫や鳥などによる花粉媒介に依存して生産量を増やしています
  3. 農家所得の減少: 収穫量の低下は農業経営を圧迫し、地域経済の衰退を加速させます。世界経済フォーラム(2020年)の推計によれば、生物多様性の劣化は**世界全体のGDPの半分以上(約44兆米ドル)**に影響を与えると予測されています

ホタルが私たちに伝えている「サイン」

ホタル自体は受粉者ではありませんが、彼らは「里地里山」の環境健全性を示す重要な指標生物です。ホタルが住むためには、豊富な水生生物、安定した水量、コンクリート化されていない岸辺、そして適切な「暗闇」という複合的な条件が必要です。 佐倉市でホタルが消えた背景には、以下のような複数の要因が絡み合っていると考えられます。

  • 里地里山の管理放棄: 人の手が入らなくなったことによる環境の変化。
  • 光害(ひかりがい): 過剰な人工照明がホタルの繁殖(光によるコミュニケーション)を阻害している可能性。
  • 社会経済の変化: 農業の縮小やグローバル化に伴う土地利用の変化。

私たちは、「便利で明るい夜」や「効率化された土地利用」を手に入れた代わりに、知らず知らずのうちにホタルが住めるほどの豊かな水辺や、私たちの健康を支える受粉者の生息圏を切り崩してきたのです。

ネイチャーポジティブ:損失を「回復」へ反転させる

この絶望的な流れを止めるために提唱されているのが、**「ネイチャーポジティブ(自然再興)」**という概念です。これは、生物多様性の損失を止め、2030年までに回復の軌道に乗せることを指します。

ホタルの再生は、単に「虫を増やす」ことではありません。それは、水質を改善し、過剰な照明を見直し、地域の管理体制を再構築すること、すなわち、私たちの社会そのものを「持続可能な形」へアップデートすることを意味します。

次章では、この「人間による介入」という行為そのものについて、私たちが持つべき新しい視点を考えてみましょう。

「手入れ」という共生――人間が自然のパートナーに戻るために

これまで見てきたように、ホタルや受粉者たちの減少は、私たちの生活基盤を脅かす深刻なリスクです。しかし、ここで一つの疑問が浮かびます。「自然を守るためには、人間は一切関与せず、ありのままの姿に戻すべきなのだろうか」という問いです。実は、ホタルが舞う風景の裏側には、私たちが想像する「手つかずの自然」とは正反対の真実が隠されています。

ホタルが住むのは「人工的な自然」である

日本のホタル(特にゲンジボタル)が豊かに舞う風景は、多くの場合、人が田んぼを作り、水路を管理し、定期的に草を刈ることで維持されてきた**「里地里山」という環境です。意外に思われるかもしれませんが、ソースによれば、現代における「里地里山の管理放棄」こそが、生物多様性を損なう大きな要因の一つ**であるとはっきりと記されています。

つまり、ホタルという命は、人間が自然に介入し、汗を流して管理し続けることでしか守れない「二次的な自然」の中で育まれてきました。人間が自然から身を引く(管理を放棄する)ことは、必ずしも自然を豊かにすることではなく、むしろホタルのような特定の生き物たちの居場所を奪うことにつながっているのです。この意味で、ホタルの風景は人間と自然による「共同作業」の結晶と言えます。

「人間も自然の一部」という視点のジレンマ

私たちはしばしば「人間対自然」という対立構造で物事を考えがちですが、人間もまた地球から生まれた生命体であり、私たちの活動そのものも広義の「自然現象」の一部と言えるかもしれません。しかし、今私たちが直視すべきなのは、その活動の**「スピード」と「バランス」**の異常さです。

現在の種の絶滅速度は、過去1,000万年の平均に比べて数十倍から数百倍という、恐竜絶滅時をも上回る異常な速さで進んでいます。この損失の背景には、単なる物理的な破壊だけでなく、産業構造の変化やグローバル化といった「社会経済の変化」が深く関わっています。私たちが自然の一部であるならば、その「一部」である人間の営みが、全体(地球生態系)の再生能力を上回るスピードで資源を消費しているという現状が、最大のジレンマなのです。

「手入れをする人」という役割の再定義

「自然破壊も自然の一部だ」と諦めるのではなく、私たちは**「自然を豊かにするパートナー」としての役割**を取り戻すべき段階に来ています。 「放置すること」が自然を守る唯一の道ではありません。私たちが今日から問い直すべきは、以下の視点です。

  • 「手入れ」を忘れていないか: ホタルが住む里山のように、人間が関わり続けることで守られる豊かさがあることを再認識すること。
  • 「自然」の定義を広げる: 原生林のような「手つかずの自然」だけでなく、人間と生き物が折り合いをつけてきた「里山」もまた、守るべき大切な自然であると捉えること。

環境省が推進する**「ネイチャーポジティブ(自然再興)」**は、単に損失を止めるだけでなく、自然を回復の軌道に乗せることを目指しています。これは、人間が「破壊者」から「再生の協力者」へと転換する、希望あるビジョンです。

佐倉市で消えたいすみ市の光をもう一度取り戻すために必要なのは、私たちが便利さのみを追求する「消費者」から、地域の環境を共に支える「手入れの担い手」へと、その意識をアップデートすることなのかもしれません。私たちは、自然を「守る対象」として遠ざけるのではなく、自らもその循環の一部として、新しい共生の形をデザインしていく責任があります。


出展(参考文献・データ引用元)

本記事の作成にあたり、以下の公的機関のデータおよび資料を参照しました。

環境省: 生態系サービス(基盤・供給・調整・文化的サービス)の定義資料

環境省: 「ネイチャーポジティブポータル」

IPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学―政策プラットフォーム): 「地球規模評価報告書(2019)」

FAO(国際連合食糧農業機関): 受粉者と食料生産に関する統計データ

世界経済フォーラム(WEF): 「ネイチャー・リスク・ライジング(2020)」

環境省: 学校向け教材「ホタルを通して里山環境を考える」

あとがき

ライターのあおやんです。
最後まで読んでくださってありがとうございます。

今回の記事はGWにレオと一緒にドライブしながらの取材でした。
最初は船橋三番瀬にも行って生物のことを書こうと思ったのですが、蛍が綺麗すぎて方向転換です。
携帯のカメラで上手に蛍の光が撮れなかったのが心残り。
皆さんもお時間許せば蛍スポットにお出かけしてみてはいかがでしょう。
残っちゃった船橋三番瀬の写真も載せちゃいます。

※GenSpark、NoteBookLMにサポートしてもらい記事を製作しました。

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