2026年6月6日、東京都港区にある聖アンデレ教会にて「第7回 難民・移民フェス」が開催されました。このイベントは、日本に暮らす難民や移民の人々が、自身のスキル(料理や手芸など)を活かして社会に参加する機会を提供するとともに、一般市民が彼らの背景や文化について学び、相互に交流することを目的としています。

この記事を読むことでわかること

多文化共生社会に向けた「問い」: 制度によって人生の主導権を奪われている人々に対し、社会の一員として私たちがどう向き合うべきかという視点。
「難民・移民フェス」の目的と現場の熱量: 多様なルーツを持つ人々が、料理や文化を通じて「隣人」として交流する場の意義。
難民申請者の切実な個人の物語: 政治的迫害により日本へ逃れ、「働きたいのに働けない」という制度の壁に苦悩するタイ出身Aさんの証言。
「仮放免」制度が子どもたちの未来に与える影響: 在留資格がないために進学や就職の選択肢を奪われている、日本育ちの子どもたちの不条理な現状。
データで見る日本と世界の難民情勢: 日本の認定率(約0.5%)の低さと、カナダやスウェーデンといった諸国の政策・課題との比較。
💡 用語解説:正しく知るためのキーワード
- 難民(Refugee) 紛争や人種、宗教、政治的意見などを理由に、自分の国にいると迫害を受ける恐れがあるため、国の外に逃れ、自国の保護を受けられない(あるいは望まない)人々のことです。1951年の「難民条約」によって国際的に定義されています。
- 難民申請(難民認定手続き) 日本に逃れてきた人が、日本政府に対して「難民」としての認定を求める手続きのことです。認定されると「定住者」としての在留資格が得られますが、日本の認定率は約0.5%(2023年)と、主要先進国の中で極めて低い水準にあります。
- 仮放免(Provisional Release) 入管施設に収容されている外国人を、一定の条件付きで一時的に施設外に出し、日本での生活を許可する措置のことです。しかし、法的地位は極めて不安定で、**「就労不可(働くことの禁止)」「都道府県をまたぐ移動の制限」「国民健康保険への加入不可」**といった厳しい制約が課されています。
- 補完的保護(Complementary Protection) 難民条約上の「難民」には当てはまらないものの、紛争や拷問などの深刻な被害を受ける恐れがある人を保護する制度で、日本でも2024年から導入されました。認定されると就労可能な在留資格が付与されます。
- 移民(Migrant) 一般的に、より良い経済的機会や教育、家族との再会などを求めて自発的に国境を越える人々を指します。迫害により「強制的に」移動する難民とは区別されますが、現実には両方の要因が重なっているケースも多く存在します。
難民・移民フェスへ参加
会場内では、人物の顔が特定できる写真撮影が原則禁止されており、実名や出身国の公表にも細心の注意が払われています。これは、居場所が知られることで本人や母国の家族の命に危険が及ぶ可能性がある人々が参加しているという、このフェスが抱える切実な背景を象徴しています。主催者は、「難民や移民の方は、すでに私たちのすぐ隣で、中には20年、30年と一緒に暮らしている。多様な人々が共存するほうが社会は面白い」と語ります。
様々な露店を楽しむ
普段なかなか食べる機会のない外国の料理たち。
どれも、スパイシーでおいしかったです!


たっぷりの玉ねぎを水を使わずにじっくり炒めることで生まれる「深いコクと甘み」と、エチオピアのミックススパイス「バルバレ(Berbere)」による「ガツンとした刺激的な辛さ」の絶妙な組み合わせです。


「アフリカン チキンピラオ」とは、東アフリカ(特にタンザニアやケニアなどスワヒリ文化圏)の伝統的な炊き込みご飯のことです。クミンやシナモンなどのスパイスと鶏肉を米と一緒に炊き込み、ビリヤニに似た豊かな風味とコクが特徴です。


イランのハルヴァ(Halva)は、小麦粉を油脂でじっくり炒り、サフランやローズウォーターで香り付けした伝統的なペースト状のスイーツです。国によって形状や原料は異なりますが、イランのものはしっとりとした独特の食感と、華やかな香りが特徴です。




食事以外にも様々なお店が出店していて皆さん楽しんでいました。
昼くらいになると人でごった返しています。
来年訪問予定の方は早めがお勧めですよ。

日本での難民の方の多くは仕事に就くことができないので、経済事情は苦しくなることが多いです。

医療相談コーナーもありました。ここで直接の解決にならなくても専門家につないだ件もあるようです。前述のお仕事以外に社会保障へのアクセスが難しいのでこういったブースがあるのも嬉しいですね。
難民申請者Aさんの証言:政治的迫害と「自立」への渇望

フェスの会場で、私たちはタイから逃れてきた難民申請者のAさんに話を伺うことができました。Aさんは後日、さらに詳細な状況を伝えるメールを寄せてくれました。個人情報保護のため詳細は伏せますが、彼が日本へ逃れざるを得なかった経緯と、現在の苦境をありのままに記録します。
Aさんが母国を離れたのは、身の危険を感じるほどの政治的迫害を受けたためです。 「私は自分の国で、王様と(体制を)批判しました。このデータを反対しました。ですから、もし今自分の国に戻ったら、私はとても危ないです。私と同じ活動をした仲間は、今も刑務所の中に懲役されています」
命からがら日本へ辿り着いたAさんですが、現在は「仮放免」という極めて不安定な立場に置かれています。一度目の難民申請は認められず、現在は二度目の申請却下に対する審査請求(異議申し立て)を行っている最中です。
最も彼を苦しめているのは、法的に「働くことが禁じられている」という現実です。 「今、一番大変なのは、私は自分でお金を稼ぐことができず、他の人から支援をいただかなければならないことです。それは私にとって、とても『恥ずかしい』ことです。本当は、公式に働きたいです。私はとても真面目に、日本語検定の勉強もしています。でも、仮放免の状態では働くことができません」
Aさんは、日本の支援者が募金を集めて家賃を払ってくれたことに、涙が出るほど感謝していると繰り返しました。しかし、同時に「同じ時に私は恥ずかしいと感じています」と語ります。彼にとって「働く」ことは単なる金銭取得の手段ではなく、人間としての尊厳を保ち、社会の一員として自立するための不可欠な権利なのです。
「私の国が民主的な国になったら、私はすぐに帰って、自分の力で国を良くしていきたいです。でも、帰れない今は、どうか日本で働かせてください。私は他の人に迷惑をかけたくない。自分の力で生きていきたいのです」
トークセッション:仮放免の子どもたちが直面する「閉ざされた未来」

礼拝堂で行われたトークセッションでは、「仮放免の隣人たちのはなし」をテーマに、より構造的な問題が議論されました。登壇したのは、仮放免高校生への学習支援を行う加藤美和氏、フォトジャーナリストの安田菜津紀氏、そしてジャーナリストの池尾伸一氏です。
ここで焦点が当てられたのは、日本で生まれ育ちながら、在留資格がないために未来を制限されている子どもたちの現状です。 仮放免状態にある子どもたちは、国民健康保険への加入が認められず、居住している県の外に出る際にも入管の許可が必要です。そして、高校を卒業した後の進路、つまり大学進学や就職という段階で、深刻な壁に直面します。
「日本で育ち、日本語しか話せない子どもたちが、在留資格がないという理由だけで、就職することも、夢を語ることに制限がかかっている」という実態が報告されました。彼らは「自身の努力」ではどうにもならない制度的な不条理によって、社会から疎外されています。ボランティアとして学習支援に関わる参加者も、「様々な国の親たちが、子どもたちの将来を考えて深く悩んでいる姿」を目の当たりにしていると語ります。
フェスの賑やかな音楽や料理の香りが漂うすぐ傍らで、Aさんのような「自立を願う大人」と、「未来を閉ざされた子どもたち」が、今この瞬間も私たちの隣人として存在している。その事実を突きつけられるセッションとなりました。
データでわかる日本・海外の移民難民の状況 ― 受容と統合の国際比較

難民・移民フェスで出会った個々の物語をより深く理解するためには、日本と世界が置かれている客観的な状況をデータで俯瞰する必要があります。現在、世界では紛争や迫害、気候変動などにより、かつてない規模で人々が移動を強いられています。
爆発的に増加する世界の強制移動
UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の統計によると、2023年末時点で紛争や迫害により避難を余儀なくされた人の数は、世界全体で約1億1,760万人に達しました。この数字は過去10年間で倍増しており、記録的な水準です。
その内訳は、難民条約上の難民が約3,700万人、国内避難民(IDP)が約6,880万人などとなっています。特筆すべきは、難民の約75%が自国の隣国や開発途上国に滞在しており、先進国が受け入れているのは全体の一部に過ぎないという点です。
日本と主要先進国の難民認定率の格差
日本の難民認定制度は、主要先進国と比較して「極めて厳格」であると指摘され続けてきました。2023年のデータを見ると、日本の難民認定者数は303人で、認定率はわずか約0.5%にとどまっています。
これを2022年の他国のデータと比較すると、その差は一目瞭然です。
- カナダ: 難民認定率 約62%(補完的保護を含む保護率 約67%)
- ドイツ: 難民認定率 約26%(同 保護率 約54%)
- アメリカ: 難民認定率 約32%
- イギリス: 難民認定率 約72%
日本は2024年から、難民条約には該当しないものの命の危険がある人を保護する「補完的保護制度」を導入しましたが、依然として欧米諸国との認定基準の差は大きいのが現状です。
多様化する各国の政策と「社会統合」の壁
難民受け入れにおいて、世界は必ずしも「拡大」の一辺倒ではありません。人道的な責任と、国内の社会的な安定のバランスに苦慮している国も多くあります。
- カナダの多文化主義: カナダは国是として多文化主義を掲げ、政府だけでなく市民グループが難民のスポンサーとなる独自の制度(私的スポンサーシップ)を持っています。無料の言語教育や就労支援、資格認定支援など、包括的な「社会統合プログラム」が充実しているのが特徴です。
- スウェーデンの政策転換: 長年、人口比でEUトップクラスの難民を受け入れてきたスウェーデンですが、近年は大きな転換点を迎えています。労働市場への統合の遅れや住宅不足、それに伴う社会的分断といった課題に直面し、受け入れ人数の制限や家族呼び寄せの厳格化など、政策の見直しを余儀なくされています。
- ドイツの苦悩: 2015年の難民危機で約100万人を受け入れたドイツも、言語習得や雇用マッチングなどの統合コスト、そして反移民感情の高まりといった国内課題に直面しています。
これらの事例は、単に「受け入れるか否か」だけでなく、「受け入れた後の人々の生活を、社会がいかに支え、共に生きていくか(社会統合)」という問いが、国際社会共通の難題であることを示しています。
日本における「隣人」の現状と制度の歪み
翻って日本国内を見ると、認定率は低いものの、私たちの社会にはすでに多くの外国籍住民が暮らしています。2023年末時点の在留外国人数は約341万人と、日本の総人口の約2.7%を占め、過去最高を更新しました。
しかし、フェスで出会ったAさんのような「仮放免」という立場に置かれた人々は、この統計の「外側」で極めて不安定な生活を強いられています。
- 仮放免者の数: 約4,000人(2023年推計)
- 生活制限: 就労禁止、健康保険加入不可、生活保護対象外、都道府県をまたぐ移動の制限
日本にはカナダやドイツのような体系的な公的言語プログラムや就労支援が乏しく、特に仮放免者に対しては「社会の一員として生きること」そのものを制限する制度設計になっています。
データが示すのは、日本が「難民を受け入れない国」であるという事実だけではありません。すでに隣人として存在している人々に対し、「自立して生きる機会を制度が塞いでしまっている」という、日本固有の歪みなのです。国際社会が「受け入れ後の統合」に苦慮しているのと同様、日本もまた、この「透明化された隣人」たちとどう向き合うのか、という重い問いを突きつけられています。
私たちはこの「問い」をどう受け止めるか ― 制度の壁により自らの生き方を選べない
難民・移民フェスという「隣人」との交流の場、そして各国のデータが示す客観的な情勢を辿ってきました。最後に、この記事を読んでくださった皆さんへ、いくつか「問いかけ」をさせてください。
私たちがフェスで出会ったのは、支援を必要としている「かわいそうな人々」ではありません。そこには、自らの足で立ち、社会に貢献したいと願う「意志ある個人」の姿がありました。
「誇り」が制限される不条理
タイ出身のAさんは、日本の支援者への深い感謝を口にしながらも、自分で働けない現状を「恥ずかしい」と表現しました。この「恥ずかしさ」という言葉の裏には、自立して誰かを支える側になりたいという、人間としての強い「自尊心」が隠されています。
彼は決して努力を怠っているわけではありません。日本語を猛勉強し、社会に馴染もうと懸命に努めています。しかし、日本の「仮放免」という制度により、彼の能力や意欲とは無関係に、一律に「働くこと」ができなくなっています。
- 読者の皆さんへの問い: 「もし、あなたが『誰かの役に立ちたい』という真っ当な誇りを持ちながら、制度によって社会貢献の手段(働く権利)が制限され、誰かの善意だけで生きることを強制されたとしたら。そのとき、あなたはどんな気持ちになりますか?仕事ができない状況でどんなアクションを起こしますか?」
「選べない理由」で閉ざされる未来
トークセッションで語られた子どもたちの現状も、同様に深刻です。日本で育ち、日本語しか話せない子どもたちが、親の在留資格がないという「自分では選べない理由」によって、大学進学や就職という当たり前の未来を奪われています。
これは、本人の資質や努力の問題ではありません。生まれた場所や親の事情という、個人の責任を超えた「制度の線引き」によって、スタートラインに立つことさえ許されない不条理です。
- 読者の皆さんへの問い: 「本人の努力ではどうにもならない理由で、子どもたちが夢を描くことさえ制限される社会。そんな不条理な線を引いているのは誰なのか、そしてその線をどうすれば引き直せるのか。私たちはこの現実に、どう向き合うべきでしょうか?」
他人事ではなく「隣人」の問題として
フェスの主催者は、「難民や移民は、すでに私たちの隣に20年、30年と暮らしている隣人である」と語りました。彼らは遠い国のニュースの中の存在ではなく、今日、あなたの街で、あなたの隣で、共にこの社会を構成している一員です。
必要なのは、過剰な同情ではなく、一人の人間として**「自分の人生の主導権を握り、自分の力で歩んでいく権利」**です。
現在の日本の制度自体は日本という社会・文化を守るためにせっけいされています。しかし遍く適用される制度であるがゆえに個別に対応が難しい状況です。
そのため仮放免となっている彼ら自身の能力不足ではなく、その「当たり前の願い」を阻んでいるじょうきょうがあります。
この記事を通じて、彼らの「恥ずかしい」という言葉の奥にある誇りや、子どもたちの「どん詰まり」の状況を、単なる社会問題としてではなく、だれにでも訪れる可能性のある不条理への心の備え、不条理見舞われた隣人への理解のきっかけになれば幸いです。
フェスで味わった料理の美味しさや、音楽の賑わい。その背景にある彼らの切実な願いを、私たちはどのように社会の形へと反映させていけるでしょうか。その答えは、私たち一人ひとりの意識の変化の先にあるはずです。
出典
- 第7回難民・移民フェス 実行委員会(現地取材/note/公式チラシ)
- UNHCR(国連難民高等弁務官事務所) Global Trends Report(統計データ)
- 出入国在留管理庁 統計資料(2023年末 在留外国人数・難民認定数)
- 『仮放免の子どもたち』(池尾伸一 著 / 講談社)およびトークセッション
- 難民申請者Aさんへの直接インタビュー
- あとがき
- ライターのあおやんです。
- 最後まで読んでくださってありがとうございます。
あとがき
ライターのあおやんです。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
念願叶って難民・移民フェスへの参加することができました!
去年はこのフェスを知ったときにはすでに開催が終わっていたのです。
取材前にプレス向けの説明会で金井真紀さんのお話をお聞きしていた時、以下のように話されていました。
「いろんな人が一緒の場所にいて、ごちゃごちゃしてるほうが面白い」
「料理でも音楽でも、そういうこと(混ざり合うこと)で発展してきたと思う」
「(記事を書く際も)楽しいなという感じで書いていただければ」
サステナブルーで扱うテーマの中には、ややもすれば重たくなってしまうものも出てくるはずです。ですが金井さんの前向きな明るい姿勢を忘れずに皆さんに楽しく伝える、そんなメディアに育てていきたいなと思いました。

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