【訪問記】保護犬と若者が「自分らしさ」を取り戻す場所。認定NPO法人キドックス

NPO・地域団体の活動

茨城県つくば市。常磐道桜土浦ICからほど近い場所に、その施設はあります。HACC(ヒューマンアニマルコミュニティセンター)キドックス。ここは、行き場を失った保護犬と、社会の中で生きづらさを抱える若者たちが共に手を取り合い、再出発を期すための「居場所」です。今回、私はこの場所で開催された「キドックスまるごと見学ツアー」に参加し、その活動に触れてきました。

この記事を読むことでわかること

この記事では、茨城県つくば市を拠点に活動する認定NPO法人キドックスへの訪問を通じて得た、以下の情報を詳しくお伝えします。

  • 保護犬と若者の相互支援: 殺処分に直面した犬と、社会的な孤立に悩む若者が共に成長する独自の「ドッグプログラム」の仕組み。
  • 「HACCキドックス」の現場: 徹底した衛生管理が行われているシェルター内部や、保護犬とゆっくり触れ合えるカフェの様子。
  • 生きづらさを解消するヒント: 事務局長・岡本氏へのインタビューから見えた、既存の「物差し」に縛られずに自分らしく生きるための心の持ちよう。

キドックスまるごと見学ツアー

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認定NPO法人キドックスとは:「人も犬も自分らしく」を掲げる多面的な支援

キドックスは2011年に設立され、2012年にNPO法人化された団体です。そのビジョンは、「犬も人も自分らしく生きられる社会」の実現。この一言に、彼らの活動のすべてが凝縮されています。

同団体の大きな特徴は、「保護犬の支援」と「若者の自立支援」を掛け合わせた「ドッグプログラム(動物介在活動)」にあります。茨城県はかつて殺処分数が全国ワースト1位を記録していた時期があり、代表理事の上山琴美氏は、幼少期からこの現実に強い衝撃を受けてきました。一方で、中学時代の友人が非行に走る姿を目の当たりにし、青少年が抱える社会的な孤立にも問題意識を持っていました。

この2つの課題を同時に解決するヒントとなったのが、アメリカの少年院で実施されている更生プログラム「プロジェクト・プーチ」でした。犯罪を犯した少年たちが保護犬を世話し、里親を探す過程で責任感や愛情を学ぶこの仕組みを、日本の「不登校・引きこもり」という社会課題に応用したのがキドックスの出発点です。

双方向のコミュニケーション:命令ではなく「対話」としてのトレーニング

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見学ツアー中、私は若者たちが犬とトレーニングを行う「コミュタイム」という時間を見学してきました。ここで驚かされたのは、一般的に想像される「しつけ」とは一線を画す、そのコミュニケーションの手法です。

キドックスでは、「待て」というコマンドを「お地蔵さんになろう」、「おいで」を「呼び合い」と言い換えるなど、独自の表現を使っています。これは、人間が犬に対して一方的に指示を下すのではなく、「人と犬が一緒に楽しんでこの場を作る」という双方向の姿勢を大切にしているからです。

実演してくれた若者は、緊張した面持ちながらも、あらかじめ準備したメモを丁寧に確認しながら、私たち見学者に犬の状態やトレーニングの意図を説明してくれました。その一生懸命な姿と、彼らの指示に真っ直ぐな瞳で応えるワンちゃんたち。双方に過去辛い思いがあったのかもしれませんが、今、目の前で「共に歩もう」とする活き活きとした姿に、不覚にも目頭が熱くなりました。彼らにとって、この時間は単なる練習ではなく、互いの信頼を築くための尊い対話なのです。

保護犬カフェ:日常の姿から紡がれる「新しい家族」への絆

次に案内されたのは、一般の方も利用できる「キドックスカフェ」です。ここは保護犬たちの社会化練習の場であると同時に、里親さんとの出会いの場でもあります。

店内には、一頭一頭の性格や保護された経緯が綴られた「犬生アルバム」や、卒業した犬たちからのメッセージ集が置かれていました。

通常の譲渡会のようなイベントでは、環境の変化に緊張して本来の姿を見せられない犬も少なくありません。しかし、このカフェは犬たちにとっての「いつもの場所」であるため、リラックスした普段通りの様子を見ることができます。

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私もツアーの後に実際にカフェを体験しましたが、最初は警戒していた子が、手からおやつを食べてくれた瞬間、心の距離が縮まったような楽しさを感じました。また、壁に掲げられた桜の木をモチーフにしたメッセージボードには、若者たちの想いが溢れており、ここが単なる施設ではなく、温かなコミュニティであることを実感させてくれます。

④ シェルターの舞台裏:プロフェッショナリズムに基づくQOLの追求

普段は立ち入れないシェルターの内部も見学させていただきました。ここで印象的だったのは、徹底した「衛生管理」と「犬のQOL(生活の質)」へのこだわりです。

床は水掃除がしやすいよう滑らかな素材で作られ、排水設備も完備されていました。犬たちの食器は毎回ハイターで消毒され、感染症対策として、受け入れたばかりの子は2週間隔離して健康状態を確認する徹底ぶりです。

さらに、一頭一頭に適切な運動やケアが行き届くよう、収容上限を15頭に制限しています。生き物を預かるということは、365日休みがないことを意味します。スタッフの皆様の献身的な努力によって、この清潔で安全な環境が維持されていることに深く感銘を受けました。

また、併設されたペットホテルやトリミングコーナーも重要な役割を担っています。卒業犬がこれらのサービスを利用し続けることで、里親さんとキドックスの継続的な関係が保たれ、もし困りごとがあれば相談しやすいサポート体制が整っています。

事務局長が語る「動物介在活動」の真価:居場所としての力

ツアーの最後、事務局長の岡本さんから、活動の核心についての話を伺いました。そこには、現代社会が抱える根深い課題への問いかけがありました。

動物という「理由」が、外に出る一歩を支える】

現在、日本には不登校や長期欠席を余儀なくされている子供たちが数十万人存在します。彼らにとって、「支援を受ける場所」に行くこと自体が高いハードルとなります。なぜなら、そこへ行くことは「自分が助けが必要な弱い存在である」と認めることにも繋がるからです。しかし、キドックスには「犬や猫がいるから」という、自然で前向きな理由があります。

責任感と貢献感が育む「自己肯定感」

自分のことはおざなりになりがちな若者でも、「自分を待っている犬のために」「この子の散歩のために」と、他者(動物)のために責任感を持って行動できるようになります。保護犬をトレーニングし、新しい家族へと繋げる活動は、社会的に非常に意義のある仕事です。この**「支援される側から、社会に貢献する側へ」**という役割の変化が、若者たちに充実感と大きな自信をもたらします。

福祉の枠を超えた「ごちゃ混ぜのコミュニティ」へ

現在、キドックスの運営は就労継続支援という福祉制度を活用し運営している側面があります。
しかし、彼らが本当に目指しているのは、福祉という限定的な枠組みだけではありません。

「ちょっと疲れた大人が癒やされに来る」「元気な人も引きこもりの人も、犬を介して当たり前に交流する」。そんな、誰もがフラットに集い、心が温まる「間口の広い場所」でありたいという願い。
次の段落ではそれを深堀ってみましょう。

言葉なき教師から学ぶ「あるがまま」の価値:私たちが外すべき物差し

見学ツアーの締めくくりに伺った、事務局長・岡本さんの言葉には、現代社会が抱える「生きづらさ」の正体を射抜くような鋭さと、深い慈愛が込められていました。それは、キドックスが単なる「保護団体」や「福祉施設」であることを超え、私たち自身の「心の在り方」を問い直す場所であることを象徴していました。

「普通」というレールが奪うもの

岡本さんは、活動を続ける中での葛藤として、「社会的な常識」や「一般的なレール」という物差しについて言及されました。

私たちは無意識のうちに、他者や自分自身を「学校に行くのが当たり前」「社会人としてこうあるべき」といった既存の価値観で評価し、そこから外れた人を「変えよう」「正そう」としてしまいがちです。親御さんたちも学業への遅れを心配するあまり早期の復帰を目指してしまうようです。
しかし、その「普通」という期待こそが、環境や社会との摩擦に苦しむ若者たちをさらに追い詰め、孤立を深める原因になっているのではないか——。この問いは、効率や成果を求める現代社会に生きる私たちすべてに突き刺さるものです。

キドックスが大切にしているのは、相手に変化を強いることではなく、「その人らしく、その仔らしく」可能性を発揮できる環境を整えることです。支援が必要な存在として固定されるのではなく、一人の人間として、また一頭の生命として尊重される「豊かな関係性」こそが、回復への第一歩なのです。

犬たちが教えてくれる「今のあなた」との向き合い方

キドックスにいる犬や猫たちは、人間のような複雑な「常識」や「肩書き」を持ち合わせていません。彼らにとって、目の前の人間が不登校であるか、引きこもりであるか、過去にどのような失敗をしたかは、全く関係がないのです。

彼らが求めているのは、今この瞬間に自分を愛し、世話をしてくれる誠実な態度だけです。犬たちは、過去や経歴というフィルターを通さず、目の前の相手を「あるがまま」に受け入れ、真っ直ぐに向き合います

プログラムに参加する若者たちは、この犬たちの素直な反応から多くを学びます。ある卒業生は、「犬は人間を信じて向き合い、行動してくれる。人を信じることに現状を変える可能性があると感じた」と語っています。言葉を発しない彼らは、ただ存在すること、そして無条件に信頼を寄せることで、人間が忘れてしまいがちな「存在そのものの肯定」を教えてくれるのです。

「支援される側」から「社会を変える側」への転換

キドックスの活動が画期的なのは、生きづらさを抱える若者が「支援を受ける側」から、命を救う「支援する側」へと役割を変える点にあります。

自分のことには無頓着になりがちな若者でも、「自分を待っている犬のために」「この子の新しい家族を見つけるために」という責任感を持つことで、驚くほどの成長を見せます。保護犬という、自分たちと同じかそれ以上に社会的に弱い立場にある存在を助ける活動は、彼らに「自分は社会の役に立っている」という強い貢献感と自信をもたらします。

この「誰かのために頑張る」という経験こそが、自己肯定感を取り戻し、自分らしい人生を歩み出すための原動力となっているのです。

私たちにできる「小さな一歩」:優しさのフィルターで世界を見る

活動を支援する方法は、寄付やボランティア、カフェの利用など多岐にわたります。しかし、岡本さんのお話を伺って強く感じたのは、私たちが明日から日常の中でできる最も大切な「支援」は、「自分や他者を、既存の物差しで測るのをやめること」だということです。

思い通りにいかない状況に直面したとき、それを「失敗」や「不幸」と悲観するのではなく、犬たちが見せてくれるように「今の状況」を事実として受け止めてみる。そして、周囲の人に対しても、「普通はこうだ」という色眼鏡を外し、その人が持っている「あるがまま」の良さを見つめてみる。

岡本さんは、ビジネス用語や効率重視の言葉ではなく、「相手にどう向き合うか」という態度が滲み出るような言葉選びを大切にされています。私たちも、言葉の端々に、あるいは日々の視線に、ほんの少しの「優しさというフィルター」を重ねるだけで、世界は今よりずっと生きやすい場所に変わるはずです。

もしあなたが今、何かのレールから外れて悩んでいたり、誰かを理解できずに苦しんでいたりするなら、ぜひ一度、キドックスのワンちゃんたちに会いに行ってみてください。彼らはきっと、何も言わずに、あなたを「あなた」として受け入れてくれるはずです。

あとがき

ライターのあおやんです。
最後まで読んでくださってありがとうございます。

今回の訪問記はたくさんのわんちゃん達に会うことができて至福でした🐶

カフェの食事もすっごく力を入れていらっしゃいます。プロの料理人の方の監修で作られているとのことで、今回いただいたサンドイッチもパンはザクザク、ソーセージはブリンブリンでめちゃうまでした。ビジュも食欲を誘うでしょう?

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私は犬(チワワのレオ、9歳、オス)と一緒に暮らしています。
記事を書いている今も、足元でちょろちょろしています。
毎日幸せな気持ちにさせてくれてありがとうね。
私の好きなたぐちひさとさんの詩がこちら。

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