子ども食堂はなぜ毎日必要なのか:江戸川区NPO法人らいおんはーとインタビュー

NPO・地域団体の活動

365日子ども食堂「ぬくぬく」を訪ねて

「今日、夕飯を食べられるかな」「おうちに帰っても一人で寂しいな」。
子どもがそんな不安を抱えたまま一日を終える社会は、見過ごしたくありません。

東京都江戸川区で、365日毎日子ども食堂を開所しているNPO法人らいおんはーとの子ども食堂「ぬくぬく」さんに再訪しました。

今回は、らいおんはーとで広報・ボランティアを担当する佐藤すずみさんに、活動の核にある考え方と、現場で起きている変化、そしてこれからの課題をお聞きしました。

前回の訪問記事はこちら:https://blu-sust.com/lion/


インタビュー:らいおんはーと/子ども食堂「ぬくぬく」とは

佐藤さんは、らいおんはーとの理念をこう語ります。

「すべての子どもたちに豊かで幸せな生活を提供する。その基盤となる安心感として、365日『今日夕飯を食べられるかな』『今日誰かに会えるかな』という不安をなくすことが一番の支援だと思っています」

らいおんはーとは、365日開所の子ども食堂を核にしながら、次のような取り組みを行っています。

  • 無料の集団塾(学習支援)
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  • 不登校の子どもたちのためのフリースクール
  • ひとり親家庭への食品無償配布
  • 中学生向けの高校進路相談
  • 親子への就労支援 など

「食事」だけでなく、「学び」「相談」「体験」まで含めて、親子を総合的に支える設計です。


なぜ“毎日”開く必要があるのか

子ども食堂というと、週1回や月数回の開催をイメージする方も多いかもしれません。
しかし、らいおんはーとは当初、小学校で月2回の子ども食堂から始めたものの、そこに限界を感じたといいます。

「月2回の1~2時間では、悩みを相談できる関係性って維持できないなと感じて、いつでも来て相談できる一つの場所が必要だなと思っていました」

子どもは、毎日同じ状態ではありません。昨日は元気だった子が、今日は気分が沈んでいることもあります。“毎日開く”ことは、単なる回数の問題ではなく、関係性の設計そのものだと伝わってきます。

佐藤さんは、日々の関わりの中でこう感じているといいます。

「元気のなさそうな子を見かけたら、すぐに『どうしたの?』って声をかけることができます。毎日会うから小さな変化にも気づけて、(そう接しているうちに)子供たちどんどん明るくなっていくのを感じます」

親にとっても、毎日開いていることは大きいようです。

「子どもたちのお母さんも来ていて、理事長の及川と話す機会をつくったら、そこで悩みを話してくれて、気持ちがすごく軽くなったって言っていました」

佐藤さん自身も、産前産後の時期に心が塞ぎこんでいたものの、らいおんはーとに訪れる中で元気を取り戻したと話していました。

“子ども”だけでなく、“親”の相談も受け止める。
そこまで含めて「居場所」なのだと分かります。


食事だけではない。「体験」が社会との接点になる

らいおんはーとが意識しているのは、食事提供にとどまらない「体験」です。

「食事の提供だけじゃなくて、社会とつながることを意識した体験も提供したいと思っています」

たとえば、企業と連携した職業体験ワークショップ、芸術体験、食育体験、ITスキル学習など。佐藤さんは具体例を挙げます。

  • 商社(川商フーズ)による社員参加型の職業体験ワークショップ
  • チョークアートなどの芸術体験
  • マルエツのバックヤード見学とマヨネーズづくり(食育)
  • ExcelやCanvaなどを扱うパソコン教室(ITスキル)

「子どもたちが『こういう仕事もあるんだ』『将来こうなりたい』と思えるロールモデルに出会える機会を作っています」

学校の外側で、社会とつながる“入口”を増やしていく。
ここに、教育的な価値がはっきりあります。


「第二の家」「家族みたい」—子どもたちの言葉

佐藤さんは、子どもたちへのアンケート結果を紹介してくれました。
子どもたちからはこんな言葉が寄せられたそうです。

  • 「帰る場所」
  • 「第二の家」
  • 「おかえりって言ってもらえるのが嬉しい」

佐藤さんは、関わり方についても率直に話します。

「血はつながってないけど家族みたいで、私も理事長も本当に子どもだと思ってます。怒ったり泣いたり真剣に接するから、みんなそれを感じてくれてるんだと思います」

“優しいだけ”ではない。
真剣に向き合う覚悟が、信頼を作っているのだと感じました。


「子ども食堂=貧困」のイメージを変えたい

子ども食堂には、まだ強い固定観念があります。佐藤さんはそれを課題として挙げます。

「子ども食堂=貧困っていうイメージが強くて、行くと後ろ指をさされるんじゃないかと思って行かない人がいるので、そこをポジティブに変えたいです」

そして、こう言い切ります。

「いろんな人と交流できて、美味しいご飯が食べられる場所っていうポジティブなイメージにしたいです」

ここは、読者にとっても重要な視点です。
“支援される場所”ではなく、“当たり前に行ける居場所”として捉え直すことが、利用のハードルを下げます。


移転と資金—「余裕があると思われがち」な現実

らいおんはーとは、現在の施設の老朽化などにより移転が決まっています。
しかし、移転には現実的な費用がかかります。

「これまで施設を無償で貸してくださってる方のご厚意で続けてこられたのに、これから家賃が発生します。同じ規模・活動を維持するには年間約3,000万円、このうち家賃だけで350万円かかります」

さらに、活動が注目されることで起きる“誤解”もあります。

「SNSやメディアで取り上げられる機会が増えて、寄付がいっぱい入ってる余裕があると思われがちで、実際そういう声も聞きます。でも、スタッフのほとんどがボランティアで、食材も寄付と協力でなんとかやってる状況です」

「良い活動=お金が回っているはず」という思い込みが、現場を苦しめることがあります。
活動が続くほど、守る子どもが増え、責任も増える。だから支えも必要になる。佐藤さんの言葉は、その現実をはっきり示していました。

こちらはらいおんはーとさんのクラウドファンディングの頁です(2026年1月末まで)
https://congrant.com/project/npo-lh810/20293


らいおんはーとの想い:子ども食堂の“その先”へ

らいおんはーとが目指しているのは、最終的に子ども食堂が必要なくなる社会を目指しています。

その社会では、困っている人を見かけたときに、誰かが自然に声をかけられる。たとえば、将来この子たちが大人になったとき、困っている人に自分から「大丈夫?」と言えるようになってほしい。いま子ども食堂に通っている子達が家庭を持ったとき、自分の子どもの友達が「ご飯を食べていない」「服がボロボロで生活が大変そう」と感じたなら、「うちにご飯を食べにおいでよ」と当たり前に言える大人になってほしい。
そうした“当たり前の優しさ”が地域に広がっていけば、子ども食堂が担っている役割そのものが、社会の中へ溶け込んでいきます。

そして、そのために今いちばん大事にしているのが、一人ひとりの子どもと親に向き合うことです。365日開所を続けるうえで必要なのは、目の前の子どもだけを見るのではなく、親や保護者も含めて関わり、その子の人生に責任を持つ覚悟を持つことだといいます。
子どもが変わるだけではなく、親も変わり、家庭の中の意識も少しずつ変わっていく。さらに「みんなで子どもを育てていく」という感覚が、親側にも根付いていく。らいおんはーとは、そうした変化が積み重なった先に、子どもたちの自己肯定感が育ち、やがては他者を思いやる力につながると考えています。

子どもたちが、自分のためだけではなく、社会のために、周りの人のために働き、役に立つ方向へ進んでいく。利他の感覚が“特別なもの”ではなく日常のものになる。
らいおんはーとの活動には、その未来を手繰り寄せるための「今」があります。

データで見る、子どもの居場所が必要になる背景

ここからは、「家庭の問題」「不登校」「子どもの心の状態」と重なる社会的背景を、4つのデータで確認します。

離婚の増加(人口動態統計)

厚生労働省の人口動態統計(概数)では、2024年の離婚件数は18万5,895組、離婚率(人口千対)は1.55とされています。 厚生労働省
2024年は、1日あたり約1,330組が結婚しているのに対し1日あたり約500組が離婚している計算です。
※婚姻件数は48万5,092組を365で割ったもの、結婚したカップルと離婚したカップルが同一ということではないのでご注意ください。
家庭環境が変化すること自体が直ちに問題ではありませんが、生活基盤や養育環境が揺れやすくなるケースがあるのも事実です。

ひとり親世帯の子どもの貧困(国際比較)

OECDのファミリーデータベース資料では、子どものいる「単身親世帯」の貧困率について、OECD平均は29.3%と示されています。 webfs.oecd.org
また、OECD比較の中で日本の単身親世帯の子どもの貧困率が48.5%という推計に言及する資料もあります。 bpw-japan.jp
「困っている家庭が存在する」ことを、数字が裏づけています。

不登校の増加(令和5年度)

文部科学省は、令和5年度(2023年度)の不登校について、小・中学校で約34万6千人、高等学校で約6万9千人と公表しています。 文部科学省
佐藤さんが語った「学校が楽しくないから不登校」といった実感は、統計上も無視できない規模になっています。

子どもの幸福度(ユニセフの国際比較)

ユニセフ・イノチェンティ研究所の「レポートカード16」では、日本の子どもの幸福度は総合で38か国中20位、一方で精神的幸福度は37位、身体的健康は1位と紹介されています。 日本ユニセフ協会
「身体は守れていても、心は守れていない」というズレは、居場所の必要性を考える上で示唆的です。


“居場所”を社会に組み込むには:子ども食堂が突きつける問い

佐藤さんのお話を聞いて感じたのは、子ども食堂が「食事を渡す場所」ではなく、子どもと親にとっての“関係が続く場所”になっていることです。月に数回では見えにくい小さな変化も、毎日だからこそ気づける。だからこそ、安心して「戻ってこられる」と感じられるのだと思います。

理想を言えば、地域の大人が自然に声をかけ合い、困りごとを抱えた子どもを孤立させない社会のほうが望ましいのかもしれません。けれどそれを現実にするには、現代の近所付き合いの薄さ、周りの目による支援の受けにくさ、そして子どもの安全をどう担保するか(制度や運用も含む)といった、向き合うべき課題が残っています。

子ども食堂を「特別な場所」として眺めるだけではなく、これら三つの壁をどう越えるのか――その問いに向き合うことが、居場所を“当たり前”にしていく第一歩なのだと思います。

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あとがき

ライターのあおやんです。
最後まで読んでくださってありがとうございます。

以前伺った、らいおんはーとの“その後”を追いながら、移転で活動基盤が揺らぐ厳しさを目の当たりにしました。社会に必要な居場所が安心して続いていくために何ができるのかを考え続けたいと思います。

※ChatGPTにサポートしてもらい記事を製作しました。

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