千葉のキョン被害はなぜ止まらない?現地ルポで見えた「わな」のジレンマと崩壊する里山の境界線

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この記事を読むことでわかること

近年、ニュースで「千葉県に謎の鹿のような動物が大量発生している」という話題を目にしたことはないでしょうか。その動物の名は「キョン」。特定外来生物に指定されている小型のシカです。

この記事では、ライターのあおやんが実際に千葉県君津市などの現場を歩き、住民や行政担当者への取材を通じて明らかにした「獣害問題の真実」をお伝えします。

単に「外来種が増えて困っている」という表面的な話ではありません。

  • なぜキョンはこれほどまでに爆発的に増えたのか?
  • なぜ行政は、これほど騒がれているキョンを「後回し」にせざるを得ないのか?
  • データと現場の声から浮かび上がる、現代日本特有の「里山の崩壊」とは?

これらを紐解くことで、私たちが便利で快適な都市生活を送る裏側で、自然との境界線がどのように崩れ去っているのか、その本質的な課題が見えてくるはずです。

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千葉の害獣キョンを実際に見に行ってきました

民家のすぐ近くにも普通に歩いています。

房総半島の静かな住宅街や別荘地。そこには、かつては想像もできなかった異様な日常が広がっていました。

「ギャー」という悲鳴のような鳴き声

現地で話を伺った住民の方は、開口一番にその異様さを語ってくれました。「鳴き声がすごいんですよ。犬より少し大きいかなというサイズなのに、夜になると『ギャー』という、まるで人間が悲鳴を上げているような声で鳴くんです」。

2~3頭くらいで群れている様子も見かけます。

キョンは体長70cmほど。一見すると可愛らしい小型の鹿ですが、その生態は驚くほど強靭です。1980年代に勝浦市のレジャー施設「行川アイランド」から数頭が逃げ出したことが野生化の始まりとされています。閉園後にその勢力は爆発的に拡大し、現在では千葉県内の推定生息数は約86,000頭にまで達しています。

庭先の野菜から花壇まで、奪われる日常

住民の方が直面しているのは、単なる「音」の被害だけではありません。「うちは野菜をやってるんだけど、下の方をみんな食べられちゃう。もう作物にならないよ」と、ある高齢の住民は肩を落とします。

このエリアは壁を作れないので網で自宅に入られないようにしています。

驚くべきは、キョンが住宅街のすぐそばまで平気で姿を現すことです。別荘地として開発されたエリアでも、キョンは「オープンな庭」を縦横無尽に駆け抜けます。ある住民は、キョンが侵入しないように自費で柵を設置していましたが、「それでも隙間を見つけて入ってくるし、食べられちゃうんだ」と諦め顔で話してくれました。

キョンはニホンジカが食べないような植物まで食べてしまうため、庭木や花壇だけでなく、地域の植生バランスそのものを根底から変えてしまう危惧さえあるのです。

フン公害も深刻

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君津市役所の職員さんに現状を教えてもらいました

なぜ、これほどまでに被害が深刻化しているのに、対策は追いつかないのでしょうか。その鍵を握る君津市役所の農政課に詳しく話を伺うと、メディアでは決して報じられない**「技術的・安全上のジレンマ」**が浮かび上がってきました。

メディアが注目するキョン、現場が戦うイノシシ

まず、大きな誤解を正さなければなりません。メディアは「珍しい外来種」であるキョンを大きく報じますが、君津市内における農作物被害額の約7割はイノシシとサルによるものです。キョンの被害額は全体の1割弱にとどまっています。

行政としては、被害額が大きく、より危険性の高いイノシシ対策を優先せざるを得ないという構造的な背景があるのです。

「わな」のセッティングを巡る苦渋の決断

キョンのワナかはわからなかったのですが、取材時に見つけた動物罠

取材の中で最も衝撃的だったのは、**「キョン対策を優先すると、人間の命が危険にさらされる」**という事実でした。

キョンを捕獲するために「くくりわな」を使用する場合、体の小さいキョンに合わせてワイヤーを締める必要があります。しかし、もしこの「キョン用わな」に大型のイノシシがかかってしまったらどうなるか。

「ワイヤーがイノシシの足に深く食い込み、足先がちぎれて逃走してしまう危険性が非常に高いのです」と担当者は語ります。

足先を千切り、負傷し、極限まで興奮したイノシシは、もはや「野生動物」という枠を超えた、極めて危険な存在となります。見回りに来たハンターや、近くを通りがかった住民を襲うリスクが急増するのです。

君津市内ではキョンが出る場所にはイノシシも出没します。そのため、安全上の理由から「イノシシがかかっても足がちぎれないセッティング」を優先せざるを得ず、結果としてキョンがわなをすり抜けてしまうという状況が発生しています。これが、キョン対策がどうしても「後手」に回ってしまう、現場の過酷な現実なのです。

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データでわかる獣害

個人の感想や現場のジレンマだけではありません。統計データは、さらに大きなスケールで「日本社会の歪み」を証明しています。

日本全国を襲う188億円の衝撃

農林水産省のデータによると、野生鳥獣による農作物被害額は、令和6年度で約188億円に達しています。その主役は依然としてシカ(35.0%)とイノシシ(28.3%)であり、キョンを含む「その他獣類」も着実にそのシェアを広げています。

10年で3倍、20年で10倍。爆発する生息数

千葉県のキョンに焦点を当てると、その増え方は異常です。

  • 2006年度:約9,200頭
  • 2019年度:約44,000頭
  • 2023年度:約86,000頭

生後半年で妊娠可能になるという驚異的な繁殖力に加え、捕獲ノウハウが全国的に少なく、捕獲が繁殖ペースに全く追いついていないことがデータから明白です。

「人間活動の撤退」が生む繁栄

なぜ、これほどまでに動物たちは増え、人里に降りてくるようになったのでしょうか。東京農工大学などの最新の研究によれば、「耕作放棄地の増加」と「降雪量の減少(温暖化)」が大きな要因となっています。

人口減少と高齢化により管理されなくなった里山が、動物たちにとって絶好の隠れ家となりました。さらに、冬の雪が減ったことで動物たちの生存率が上がり、本来なら雪に阻まれていた北限や高標高地への分布拡大を許してしまったのです。

獣害の特徴の一つとして「動物が攻めてきている」のではなく、「人間が撤退した空白地帯を動物が埋めている」ということがあるのです。

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今我々が考えるべきこと、できること

ここまで読んでいただいた皆さんに、ぜひ持ち帰ってほしい問いがあります。それは、この問題を「駆除すればいい」「外来種は殺せ」といった一義的な言葉で片付けられるだろうか、という問いです。

生態系という名の複雑なネットワーク

千葉のキョン問題は、まさに「あちらを立てれば、こちらが立たず」の象徴です。

  • キョンを捕ろうとすれば、住民を襲う危険なイノシシを作り出すリスクが生じる。
  • 外来種を排除しようとしても、現場の担い手である猟師は高齢化し、絶滅の危機にあるのはむしろ「人間側の対策システム」の方である。

生物多様性や生態系の問題は、一つのボタンを掛け違えれば、別の、より深刻な被害を引き起こすパズルです。私たちは、「外来種は悪、在来種は善」という単純な二元論では到底割り切れない、複雑に絡み合った生命のネットワークの中に生きています。

「境界線」を引き直すのは誰か

キョンが房総半島に現れた原因は、人間の「娯楽(レジャー施設)」でした。そして彼らがこれほどまでに増えた背景には、私たちが地方の過疎化を放置し、里山の管理という「自然との対話」を放棄してきた歴史があります。

レジャー施設①遠目から

クマが人里に現れるのも、シカが森の植生を壊すのも、すべては私たちが作り上げてきた現代社会の構造的な「歪み」が、野生動物という形を借りて噴出しているに過ぎません。

私たちが今、この問題から持ち帰るべき「問い」は、以下のようなものです。

  • 今回私が取り上げたキョン、またはニュースでよく見る熊など大きくクローズアップされる動物がいる裏で、実態にはシカやイノシシの獣害の方が大きい。またシカやイノシシが増えてきたことにも原因がある。
  • 特に今回のキョンはレジャー施設からの脱走が何万頭へ繁殖。「人間の都合で持ち込んだ命が、生態系を壊し始めたとき、私たちはその命に対してどこまで責任を負うべきなのか」
  • 「利便性を享受し続ける一方で、里山への影響を忘れがちな私たちのライフスタイルそのものを省みる必要はないか」
  • 「『駆除はかわいそう』という感情と、『自分たちの安全を守る』という切実な現実。その境界線はどこに引かれるべきなのか」害獣対策してくれているハンターさん達の苦労も考えて盛る必要があるのでは。

キョンの「ギャー」という鋭い鳴き声は、かつて人間が必死に維持してきた「自然との境界線」が、足元から崩れていることを告げる警笛のように聞こえます。

この複雑な問題を、私たちはどのように明日からの自然と、そして自分たちの社会と向き合っていくべきなのでしょうか。その答えは、決して一義的なものではないはずです。

レジャー施設②施設前交差点、キョンは早朝、または夕方以降に活発になる

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参考資料:

  • 農林水産省「野生鳥獣被害防止マニュアル」「農作物被害状況」
  • 千葉県「第2次千葉県キョン防除実施計画」
  • 東京農工大学「人間活動の撤退は野生動物の繁栄を促進する」
  • 君津市役所農政課 メールのご回答
  • 現地住民の方への聞き取り調査(2026年2月)

あとがき

ライターのあおやんです。
最後まで読んでくださってありがとうございます。

今回の撮影は夕方の勝浦でした(初回君津に探しに行ったときは空振り)。
帰り道は真っ暗になってしまったものでキョンの家族が群れてて、危うく事故になるところでした、危ないな、もう!

これはその時のではないですが、道路近くにも普通に出てきます。

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